マイクロン・テクノロジー(Nasdaq: MU)が、米国時間2026年6月24日(水)の引け後に、2026会計年度第3四半期(FQ3、2026年5月末締め)の決算を発表します。AI向け高帯域幅メモリ(HBM)とDRAM価格の高騰を背景に、同社の業績はこの数四半期で記録更新を続けており、株価も歴史的な急騰局面にあります。
ただし、決算プレビューで押さえるべきは「数字が良いか悪いか」だけではありません。会社はすでにFQ3について売上335億ドル・非GAAP EPS19.15ドルという強気ガイダンスを開示済みで、市場の関心は「その数字を上回れるか」と、さらに重要な「次の四半期(FQ4)以降の見通し」に移っています。本稿では確定した事実(会社開示)と、報道・アナリスト見解・市況データを切り分けながら、注目点を整理します。
■この記事の要点
- 会社ガイダンス(FQ3)は売上335億ドル±7.5億ドル、粗利率約81%、非GAAP EPS19.15ドル±0.40ドル。前四半期(FQ2)の売上238.6億ドル・粗利率74.4%からさらに一段の伸びを見込む。確定済みの「会社予想」である点に注意。
- 市場コンセンサスは会社予想を上回り、売上約345億ドル・EPS約19.72ドル(報道・集計ベース)。つまり「ガイダンス超過」がほぼ織り込まれており、焦点は超過幅とFQ4ガイダンスに移っている。
- 株価は6月18日終値で1,133.99ドル、過去1年で約9倍(報道ベースで+800%超)。一方でアナリスト平均目標株価は945.60ドルと株価を下回っており、「期待先行・出尽くし」リスクは決算プレビュー段階での最大の論点。
■何が問われるのか(決算前の状況整理)
時系列で確認します。3月18日発表のFQ2決算で、マイクロンは売上238.6億ドル(前四半期比+75%、前年同期比+196%)、非GAAP EPS12.20ドルと過去最高を更新しました。同時に四半期配当を30%増配しています。※1
その後、メモリ市況のひっ迫が一段と強まり、決算を前にアナリストが相次いで目標株価を引き上げています。報道ベースでは、Stifelが1,500ドル(従来550ドル)、Wedbushが1,300ドル(同550ドル)、Rosenblattが1,200ドル(同600ドル)へと、いずれも2倍超の上方修正です。※2 ※3 ※4 Appleのティム・クックCEOが、メモリ・ストレージ価格の上昇を受けて「製品価格の引き上げは避けられない」と述べたことも、6月18日にメモリ関連株を押し上げました。※5
つまり決算を待たずに期待が株価に積み上がっている状態であり、ロイターは投資家が今回の決算を「AI相場全体の勢いを測る試金石」とみていると報じています。※6 ここで重要なのは、これは「市場全体の話」ではなくAIメモリという特定セクターの需給が主因であること。半導体のなかでもロジックや一部アナログとは異なる、メモリ固有のサイクルとして切り分けて見る必要があります。
引用:
※1 Micron Technology, Inc. Reports Results for the Second Quarter of Fiscal 2026(SEC Form 8-K, Exhibit 99.1)
※2 Micron price target raised to $1,500 from $550 at Stifel(TipRanks/TheFly)
※3 Micron price target raised to $1,300 from $550 at Wedbush(TipRanks/TheFly)
※4 Micron price target raised to $1,200 from $600 at Rosenblatt(TipRanks/TheFly)
※5 MU, SNDK, STX, WDC stocks rise after Apple chief warns of memory-driven price hikes(Invezz)
※6 Wall St Week Ahead: Investors see Micron earnings as pulse check of AI rally momentum(Reuters)
■おさらい:前回(FQ2)の実績
まず直近の確定値(GAAPベース、会社開示)を押さえます。
指標(単位:売上・利益は10億ドル、EPSはドル) | FQ2-26 実績 | 前四半期 FQ1-26 | 前年同期 FQ2-25 |
|---|---|---|---|
売上 | 23.86 | 13.64 | 8.05 |
売上総利益率(GAAP) | 74.4% | 56.0% | 36.8% |
営業利益 | 16.14 | 6.14 | 1.77 |
純利益(GAAP) | 13.79 | 5.24 | 1.58 |
希薄化後EPS(GAAP) | 12.07 | 4.60 | 1.41 |
希薄化後EPS(Non-GAAP) | 12.20 | 4.78 | 1.56 |
営業キャッシュフロー | 11.90 | 8.41 | 3.94 |
事業部別では、Cloud Memory(クラウド向けメモリ、HBM中心)が売上77.5億ドル・粗利率74%、Mobile and Clientが77.1億ドル、Core Data Centerが56.9億ドルと、データセンター系の伸びが牽引役でした。前年同期に粗利率15%だったMobile and Clientが79%まで回復している点に、価格上昇のインパクトが端的に表れています。※1
■Topic①:会社ガイダンスとコンセンサス──「サプライズ余地」はどこにあるか
本記事で最も注目したい論点、ガイダンスを整理します。会社がFQ2決算と同時に開示したFQ3見通しと、市場コンセンサスを並べます。
指標 | 会社ガイダンス(FQ3-26、確定) | 市場コンセンサス(報道・集計) |
|---|---|---|
売上 | 335億ドル ± 7.5億ドル | 約345億ドル |
売上総利益率 | 約81% | ― |
営業費用(Non-GAAP) | 約14億ドル | ― |
希薄化後EPS(GAAP) | 18.90ドル ± 0.40ドル | ― |
希薄化後EPS(Non-GAAP) | 19.15ドル ± 0.40ドル | 約19.72ドル |
ここから読み取れる事実は2点です。第一に、売上335億ドルは前四半期比でさらに+40%という異例の伸び見通しで、粗利率も74.4%→約81%へと一段の改善を会社自身が見込んでいること。※1 第二に、市場コンセンサス(売上345億ドル・EPS19.72ドル)が会社予想を上回っていること。※2 ※3
つまり「会社予想を超える」こと自体は、すでに株価とコンセンサスにおおむね織り込まれています。EPSコンセンサスは報道ベースで90日前の約11.73ドルから約19.72ドルへ急上昇しており、※2 期待値のハードルは決算前から大きく切り上がっています。サプライズになり得るのは「ガイダンス超過の幅」と、後述するFQ4見通しであって、単なる「上振れ着地」ではない、という整理が現時点では妥当です。
引用:
※1 Micron Technology, Inc. Reports Results for the Second Quarter of Fiscal 2026(SEC Form 8-K, Exhibit 99.1)
※2 Micron Technology Q3 2026 Earnings Preview — Street Expects $19.72 EPS(AlphaStreet)
※3 What to Expect From Micron Technology's Q3 2026 Earnings Report(Yahoo Finance)
■Topic②:なぜここまで強いのか──HBMとメモリ市況
業績の背景にあるのが、AI起因のメモリ需給ひっ迫です。報道・調査会社ベースの市況を整理します(数値は各社・各時点で差があり、あくまで報道ベース)。
項目 | 内容(報道・調査会社ベース、確定値ではない) |
|---|---|
HBM3E価格 | Samsung・SK Hynixが2026年向けに約20%値上げと報道。※1 |
汎用DRAM | TrendForceは当初、1Q26(暦年1-3月)のコントラクト価格を前期比+55〜60%と見込んでいたが、その後+90〜95%へ上方修正(PC向けDRAMは+100%超)。※2 |
NAND | 同じく当初+33〜38%から+55〜60%へ上方修正。PC向けを含めると直近の上昇率は「2桁〜3桁%」に達する。※2 |
供給状況 | SK HynixはHBM・DRAM・NANDの2026年分が「ほぼ完売」。※3 Micronも民生向け「Crucial」事業からの撤退を発表し、供給をAI・エンタープライズ向けに振り向けている。※4 |
不足の長さ | Samsungは「深刻な供給不足は少なくとも2027年まで続く」と警告。※3 ※5 |
マイクロン固有の論点としては、HBM4(36GB・12層)の量産出荷をすでに開始し、NVIDIAの次世代「Vera Rubin」プラットフォーム向けに供給を始めていること、次世代HBM4eは2027年に立ち上がる計画であることが、FQ2の説明資料で示されています。2026会計年度の設備投資は250億ドル超で、2027年度はさらに増額の方針です。※7
歴史的文脈で相対化すると、メモリは「需要急増→増産→供給過剰→価格急落」を数十年繰り返してきた業界です。※6 直近でも2021年の好況後、2022〜2023年にはマイクロンが営業赤字に転落するなど、ボラティリティの大きさは折り紙付きです。今回の局面が過去と違うのは、HBMという構造的な新規需要が主役である点ですが、「今回は違う」と断定できる段階ではない、というのが抑制的な見方でしょう。
引用:
※1 Samsung, SK hynix Reportedly Plan ~20% HBM3E Price Hike for 2026(TrendForce)
※2 Memory Price Outlook for 1Q26 Sharply Upgraded(TrendForce, 2026年2月2日。DRAMを+55〜60%→+90〜95%、NANDを+33〜38%→+55〜60%へ上方修正)
※3 Samsung and SK hynix warn AI-driven memory shortages could last until 2027 and beyond(Tom's Hardware)
※4 Micron Announces Exit from the Crucial Consumer Business(マイクロン公式リリース)
※5 Samsung warns of memory shortages driving industry-wide price surge in 2026(Network World)
※6 Memory stocks are having their best year ever. Why do they still look so cheap?(MarketWatch)
※7 Micron Technology, Inc. Reports Results for the Second Quarter of Fiscal 2026(SEC Form 8-K, Exhibit 99.1)
■Topic③:今回いちばん見るべきは「FQ4ガイダンス」
確定済みのFQ3ガイダンスに対し、未確定で株価を動かす可能性が高いのがFQ4(2026年8月末締め)の新ガイダンスです。理由はシンプルで、FQ3の数字は3月時点ですでに大枠が示されており、投資家が知りたいのは「この上昇トレンドがどこまで続くのか」だからです。
注目したい具体的なポイント(いずれも決算で確認すべき項目):
- FQ4の売上・粗利率ガイダンス:粗利率81%からさらに切り上がるのか、頭打ちの兆しが出るのか。
- HBMの2026〜2027年分の契約状況と価格:競合同様「完売」「値上げ」が続くのか、それとも需給の緩みに言及があるか。
- DRAM/NANDの価格トレンドへの会社コメント:価格上昇の持続性をどう語るか。
- 2027会計年度の設備投資(CapEx)方針:増産を急ぎすぎれば、過去同様に次の供給過剰の種になり得る。供給規律へのスタンスは中長期の最重要論点。
これらは現時点ではすべて「未確定」であり、強気・弱気どちらにも振れ得ます。プレビュー段階で結論を出す局面ではありません。
■株価のこれまでの動き
項目 | 数値(米6月18日終値時点、取得時点で変動) |
|---|---|
株価 | 1,133.99ドル(当日 +8.70%) |
時間外 | 1,151.95ドル |
52週レンジ | 103.38 〜 1,149.43ドル |
時価総額 | 約1.28兆ドル |
予想PER(フォワード) | 約11倍 |
実績PER | 約53倍 |
アナリスト平均目標株価 | 945.60ドル(=終値を約17%下回る) |
レーティング(44社) | Strong Buy |
注目すべき矛盾が一つあります。レーティングは「Strong Buy」で、個別には1,200〜1,500ドルへの目標株価引き上げが相次ぐ一方、44社の平均目標株価(945.60ドル)は現在の株価を下回っている点です。※1 これは、株価の上昇に平均的なアナリスト予想が追いついていないことを示しており、「期待が株価に先行している」可能性を示唆します。実績PER約53倍に対しフォワードPERが約11倍という乖離も、市場が「目先の利益は急増するが、それがピークかもしれない」という両論を抱えていることの裏返しです。※1 ※2
引用:
※1 Micron Technology (MU) Stock Price & Overview(stockanalysis.com)
※2 Memory stocks are having their best year ever. Why do they still look so cheap?(MarketWatch)
■今後注目すべきイベント
- 6月24日(米引け後):FQ3-26決算発表とFQ4ガイダンス。会社の電話会議で価格・HBM・CapExへのコメントを確認。※1
- 決算直後の株価反応:Barron'sは過去の傾向から「好決算でも株価が下落し得る(=出尽くし)」と指摘。※2 TipRanksも「素晴らしい決算への神経質な反応に備えよ」と報じている。※3
- 競合・川下の動向:SK Hynix・Samsungのメモリ部門、NVIDIAのデータセンター需要、Apple等の値上げ動向(メモリコスト転嫁の波及)。※4
引用:
※1 Micron Technology to Report Fiscal Third Quarter Results on June 24, 2026(GlobeNewswire)
※2 Micron Stock Faces Tough Earnings Test. What History Shows Happens Next.(Barron's)
※3 Why Micron Investors Should Prepare for a Volatile Reaction to Great Earnings(TipRanks)
※4 MU, SNDK, STX, WDC stocks rise after Apple chief warns of memory-driven price hikes(Invezz)
■投資家目線での読み方
短期と中長期、強気材料と慎重材料を分けて整理します(いずれも判断材料であり、特定の売買を示すものではありません)。
強気材料(事実・報道ベース):HBMを中心としたAIメモリ需要は調査会社・競合各社のコメントでも力強く、供給不足は2027年まで続くとの見方が複数あります。会社ガイダンスも記録更新を示唆しています。フォワードPERは約11倍と、利益成長を前提にすれば割高とは言い切れません。
慎重材料:①メモリは歴史的にサイクル性が極めて強く、価格上昇は永続しない。②株価は1年で約9倍に達し、平均目標株価を上回って走っている。下落局面で言う「落ちるナイフを掴むな」の逆で、急騰した銘柄を高値圏で慌てて追わない姿勢も同じくらい大切です。③好決算でも「出尽くし」で売られる前例がある。④現在の高い利益水準が「ピーク利益」である可能性は、現時点では否定も肯定もできない仮説です。
総じて、今回の決算は「AIメモリ相場が本物か」を測る重要イベントである一方、会社の好業績そのものはかなり織り込み済みであり、株価の反応はガイダンスと需給の持続性コメント次第、という整理が現時点では妥当です。市場全体の話とメモリ個別の話を混同せず、サイクル性という固有のリスクを踏まえて見ることが大切だと考えます。
■まとめ
確定している事実は、マイクロンがFQ3に売上335億ドル・非GAAP EPS19.15ドル・粗利率約81%という過去最高級のガイダンスを示しており、市場コンセンサス(売上約345億ドル・EPS約19.72ドル)はそれを上回っていることです。AIメモリ需給のひっ迫も、調査会社・競合の発言という形で複数の裏づけがあります。
一方で残る不確実性は、FQ4以降のガイダンス、価格上昇の持続性、設備投資による供給規律、そしてサイクルの転換点がいつ来るのか、です。株価がすでに歴史的高値圏にあり、平均目標株価を上回って推移している以上、「決算の中身が良い=株価が上がる」とは限りません。6月24日は数字そのものより、会社が次の四半期をどう語るかに注目したいところです。