Apple(AAPL)のQ3 FY2026(2026年6月27日終了四半期)は、売上高・EPS・粗利率がそろって4〜6月期の過去最高を更新した。それでも株価は、決算発表前の333.43ドルから3営業日で約9%下落している。

売上高は約1,094億ドル(前年同期比+16.4%)、GAAP希薄化後EPSは2.02ドル(同+28.7%)で、市場予想をそれぞれ+0.7%+6.9%上回った。ただしEPSのビート幅は、その大半が関税還付0.11ドルによるものである。

売られた直接のきっかけは次の四半期だった。会社が示したQ4 FY2026(9月期)の売上ガイダンスは前年比+9〜11%で、市場が織り込んでいた+12%に届かない。背景にあるのは、ティム・クックCEOが「100年に一度の洪水」と呼んだメモリー価格の高騰と、需要に供給が追いつかない状況である。

※金額は米ドル建て、特記なき限り会社のUS GAAPベース。市場予想はLSEG(英国London Stock Exchange Groupが運営するアナリスト予想集計サービス)集計の報道ベース。

決算サマリー:売上・EPS・粗利率が4〜6月期の過去最高、それでも次期ガイダンスが株価を決めた

指標

Q3 FY2026実績

前年同期

前年比

コンセンサス

対コンセンサス

売上高

1,094.17億ドル

940.36億ドル

+16.4%

1,086.5億ドル

+0.7%ビート

GAAP希薄化後EPS

2.02ドル

1.57ドル

+28.7%

1.89ドル

+6.9%ビート

非GAAP EPS

---

---

---

---

Appleは四半期決算で非GAAP EPSを定例開示していない

GAAP粗利率

50.1%

46.5%

+360bp

約47.9%

+220bp

営業キャッシュフロー

343.69億ドル

278.67億ドル

+23.3%

---

4〜6月期として過去最高(会社説明)

引用:Apple FY2026 Q3 連結財務諸表Form 8-K / Exhibit 99.1Apple決算プレスリリース(日本語)。コンセンサスは売上高・EPSがCNBC報道(LSEG集計)、粗利率がAppleMagazine報道

※本記事の表記:前年同期比・前四半期比は +xx% / ▲xx%、利益率の変化は +xxbp(bp=ベーシスポイント、0.01%)で統一する。本文の金額は億ドル単位で丸め、詳細な桁は各表に記載する。

主要ポイント

  • 増収の中身はiPhoneとMacというハードウェアだった。 製品売上は約787億ドルで前年比+18.1%、サービス売上は約307億ドルで+12.1%。増収額約154億ドルのうち約63%をiPhone単独(+約97億ドル)が占め、サービスが+約33億ドル、Macが+約23億ドルで続いた(筆者計算)。会社は全地域セグメントで4〜6月期の売上記録を更新したと説明している(会社説明)。
  • 粗利率50.1%には一時的な要素が含まれる。 会社は関税還付が粗利率を約2ポイント、EPSを0.11ドル押し上げたと開示した。これを除くと粗利率は48.1%で、ケバン・パレクCFOは「前四半期に示したガイダンスレンジの中心値だった」と述べている(会社説明)。営業利益率は32.6%で前年同期比+260bpだが、R&D費は前年比+32.3%と売上成長率の約2倍のペースで増えている。
  • Q4ガイダンスの+9〜11%は、市場予想の+12%に届かなかった。 会社は為替が前四半期比で成長率に約2.5ポイントの逆風、供給制約が「前四半期比で著しく増加」すると説明した(会社説明)。売上中心値約1,127億ドルは報道ベースの市場予想約1,148億ドルを▲1.8%下回る(筆者計算)。粗利率ガイダンスも47.0〜48.0%と、当期実績から2.6ポイント低い水準を見込む。
  • 株価は好決算より「メモリー価格と供給制約」に反応した。 7月30日の時間外で▲6.65%の311.25ドル、7月31日終値308.91ドル(前日比▲7.4%)、8月3日終値303.42ドルと、発表前終値333.43ドルから3営業日で約9%下落した(報道ベース・筆者計算)。クックCEOはメモリー価格を「100年に一度の洪水」と表現し、9月期はさらに高いメモリーコストを見込むと述べた(会社説明)。

1. Apple Q3 FY2026決算の中身 ― 増収額の6割はiPhone

Q3 FY2026の連結売上高は約1,094億ドルで、前年同期比+16.4%、前四半期比▲1.6%となった。4〜6月期は季節的に売上が小さい四半期であり、1〜3月期比のマイナスは通常の季節性の範囲内である。増収の主因は、iPhone 17ファミリーの継続的な需要と、MacBook NeoおよびM5世代MacBook Proが牽引したMacの二桁増収である。会社は、供給制約と為替の逆風があるなかでこの水準を達成したと説明した(会社説明)。

四半期

売上高

前年比

GAAP粗利率

iPhone売上

サービス売上

Q3 FY2025

940.36億ドル

+9.6%

46.5%

445.82億ドル

274.23億ドル

Q4 FY2025

1,024.66億ドル

+7.9%

47.2%

490.25億ドル

287.50億ドル

Q1 FY2026

1,437.56億ドル

+15.7%

48.2%

852.69億ドル

300.13億ドル

Q2 FY2026

1,111.84億ドル

+16.6%

49.3%

569.94億ドル

309.76億ドル

Q3 FY2026

1,094.17億ドル

+16.4%

50.1%

542.52億ドル

307.39億ドル

Q4 FY2026(会社ガイダンス)

1,116.9〜1,137.4億ドル

+9〜11%

47.0〜48.0%

前年比mid-teens

---

引用:Apple FY2026 Q3FY2026 Q2FY2025 Q4 連結財務諸表FY2026 Q1 Form 8-K / Exhibit 99.1

  • 粗利率と前年比は開示数値からの筆者計算である。
  • Q4 FY2026行の売上高金額は、会社が示した成長率レンジ(+9〜11%)を前年同期実績1,024.66億ドルに適用した筆者換算であり、会社が金額で示したものではない。
  • mid-teensは「10%台半ば(おおむね14〜16%)」を指す会社の表現である。iPhoneのmid-teens成長は電話会議での会社説明にもとづく。

図1:Apple 連結売上高の四半期推移とQ4 FY2026ガイダンス(引用:Apple連結財務諸表。Q4は会社ガイダンスの成長率レンジからの筆者換算)

製品カテゴリ別:iPhoneとMacが牽引、iPadは減収

製品カテゴリ別では、iPhoneが約543億ドル(+21.7%)Macが約104億ドル(+28.7%)と二桁増収となり、両者で全社増収額の約78%を占めた(筆者計算)。会社は、iPhoneが全地域セグメントで4〜6月期の売上記録とアップグレード件数の記録を更新し、IDC(米調査会社インターナショナル・データ・コーポレーション)の集計でグローバルシェアを拡大したと説明している(会社説明)。Macについては、新規顧客数とアップグレード件数が四半期ベースで過去最高となり(売上高は4〜6月期としての記録)、大中華圏では全期間を通じた過去最高売上となった(会社説明)。

一方、iPadは約62億ドルで▲5.9%と唯一の減収カテゴリとなった。会社は前年同期のA16搭載iPad発売という比較対象の高さを要因に挙げている(会社説明)。サービスは約307億ドル(+12.1%)で4〜6月期の記録を更新したが、成長率は前四半期の+16.3%(筆者計算)から減速した。会社は為替の前四半期比逆風が影響したと説明している(会社説明)。

カテゴリ

Q3 FY2025

構成比

Q3 FY2026

構成比

前年比

iPhone

445.82億ドル

47.4%

542.52億ドル

49.6%

+21.7%

Mac

80.46億ドル

8.6%

103.52億ドル

9.5%

+28.7%

iPad

65.81億ドル

7.0%

61.91億ドル

5.7%

▲5.9%

ウェアラブル・ホーム・アクセサリ

74.04億ドル

7.9%

78.83億ドル

7.2%

+6.5%

サービス

274.23億ドル

29.2%

307.39億ドル

28.1%

+12.1%

合計

940.36億ドル

100.0%

1,094.17億ドル

100.0%

+16.4%

引用:Apple FY2026 Q3 連結財務諸表

  • 構成比と前年比は同資料の数値からの筆者計算である。四捨五入の関係で構成比の合計は100.0%にならない場合がある。
  • Appleは製品カテゴリ別の販売台数を開示していないため、増減が数量によるものか単価によるものかは本資料からは判別できない。

図2:Apple 製品カテゴリ別売上と構成比の変化(引用:Apple連結財務諸表)

2. 粗利率50.1%の中身 ― うち約2ポイントは関税還付

全社粗利率は50.1%となり、前年同期比+360bp、前四半期比+80bpの改善である。ただしこの数字は関税還付による約2ポイントの押し上げを含む。会社は、これを除いた実力ベースの粗利率は48.1%で、前四半期に示したガイダンスレンジ(47.5〜48.5%)の中心値に一致すると説明した(会社説明)。

内訳を見ると、製品粗利率は40.1%で前四半期比+140bp。これも関税還付が2.5ポイント超寄与しており、除けば実質的には前四半期比で低下している(会社説明を踏まえた筆者の解釈)。サービス粗利率は75.6%で前四半期比▲110bpとなり、会社はミックス変化を要因に挙げた(会社説明)。パレクCFOは、粗利率の前四半期比変動の「100%超がメモリーコストで説明でき、為替の影響はより小さい」と述べており、実力ベースの利益率がすでにメモリー価格上昇の影響下にあることを示している(会社説明)。

費用面では、営業費用が約191億ドル(前年比+22.9%)、うちR&D費が約117億ドル(+32.3%)である。売上成長率+16.4%を大きく上回るR&D投資の伸びが営業レバレッジ(増収に対して費用が比例して増えないことで利益率が上がる効果)を一部相殺し、営業利益率は32.6%と前年同期比+260bpにとどまった。前四半期比では+30bpである。

指標

Q3 FY2025

Q2 FY2026

Q3 FY2026

前年同期比

前四半期比

全社粗利率(GAAP)

46.5%

49.3%

50.1%

+360bp

+80bp

製品粗利率

34.5%

38.7%

40.1%

+560bp

+140bp

サービス粗利率

75.6%

76.7%

75.6%

+5bp

▲110bp

営業利益率(GAAP)

30.0%

32.3%

32.6%

+260bp

+30bp

R&D費

88.66億ドル

114.19億ドル

117.29億ドル

+32.3%

+2.7%

非GAAP粗利率・営業利益率

Appleは四半期決算で非GAAP利益率を定例開示していない

引用:Apple FY2026 Q3およびFY2026 Q2 連結財務諸表

  • 各利益率は開示された売上高・売上原価・営業利益からの筆者計算

図3:Apple 粗利率・営業利益率の四半期トレンド(引用:Apple連結財務諸表、各利益率は筆者計算)

EPS:ビート幅+6.9%のうち、実力ベースは+1.1%

GAAP希薄化後EPSは2.02ドルで、前年同期の1.57ドルから+28.7%となった。純利益の伸び+27.1%を1.5ポイント上回っており、この差は希薄化後株式数が前年同期の149億4,818万株から147億1,468万株へ▲1.6%減少したことによる計算上の押し上げである(筆者分析)。

EPS成長率(+28.7%)が売上成長率(+16.4%)を大きく上回った要因は、①粗利率の+360bp改善、②営業レバレッジ、③自社株買いによる株式数減少の3つに分解できる。ただし①のうち約2ポイント分は関税還付という一時的要因である。関税還付の0.11ドルを控除したEPSは1.91ドルで、この場合の前年比は+21.7%、コンセンサス1.89ドルに対するビート幅も+1.1%にとどまる(筆者計算)。報道されたEPSビート幅+6.9%の大半が関税還付で説明できることは、決算の「質」を測るうえでの見どころになる。なおAppleは非GAAP EPSを定例開示していないため、GAAPと非GAAPの増益率比較は非該当である。

図4:Apple 希薄化後GAAP EPSの四半期推移(引用:Apple連結財務諸表、関税還付の寄与額は会社開示)

キャッシュフローと資本配分:在庫の急増に注目

営業キャッシュフローは約344億ドルで、4〜6月期として過去最高となった(会社説明)。設備投資約25億ドルを差し引いたフリーキャッシュフローは約319億ドルである(筆者計算。Appleは会社定義のFCFを開示しておらず、また四半期単独のキャッシュフロー計算書も開示していないため、9カ月累計値と6カ月累計値の差分から算出)。

財務ポジションは引き続き厚い。期末の現金・市場性有価証券は約1,465億ドル、有利子負債(コマーシャルペーパー+短期・長期社債)は約843億ドルで、差し引いたネットキャッシュ(手元資金から有利子負債を引いた実質的な余剰資金)は約622億ドルである(筆者計算。会社は電話会議で現金・市場性有価証券1,470億ドル、総負債840億ドルと説明)。

当四半期の株主還元は約330億ドル。会社が内訳として述べたのは配当・配当相当額40億ドルと自社株買い258億ドルの2項目のみで、残差の約32億ドルは従業員株式報酬に伴う源泉税相当分とみられる(筆者の推定。キャッシュフロー計算書上の同税額32.10億ドルと整合する)。四半期配当は1株当たり0.27ドルへ引き上げられ、8月13日に支払われる。

運転資本では、棚卸資産が約111億ドルへ膨らんだ点が目を引く。2025年9月末の約57億ドル、2026年3月末の約67億ドルからの急増であり、前四半期末比では+64.4%である(筆者計算)。クックCEOが9月期の粗利率について「持ち越し在庫(carry-in inventory)による恩恵がある」と説明したことと整合的で、メモリーの先行手当てが進んでいる可能性を示す(会社説明を踏まえた筆者の解釈)。強い需要への備えという前向きな解釈と、高値で仕込んだ在庫が今後の売上原価に流れ込むという慎重な解釈の両方が成り立つ。次四半期以降の在庫水準と粗利率の関係は、確認ポイントのひとつになる。

図5:Apple 営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローの四半期推移(引用:Apple連結財務諸表。四半期値および設備投資額は累計値の差分による筆者計算。キャッシュフロー計算書ベースの自社株買い支出額は251.05億ドル、配当支出額は40.35億ドルで、会社説明の258億ドル・40億ドルとの差は計上基準の違いによるものと考えられる)

3. 成長ドライバー ― 需要に供給が追いつかないiPhoneとMac

今回の決算で最大のトピックは、成熟事業と見なされがちなiPhoneとMacが同時に二桁後半の成長を示し、しかもその需要を供給が満たせていないという構図である。

iPhoneは前年比+21.7%の約543億ドルで、4〜6月期の記録を全地域セグメントで更新した。アクティブデバイスのインストールベース(稼働中のApple製品台数)は過去最高となり、アップグレード件数も4〜6月期の記録を更新した(会社説明)。会社は、Worldpanelの調査で米国・中国都市部・英国・フランス・オーストラリア・日本においてiPhoneが最も売れたモデルだったこと、451 Researchの調査で米国の顧客満足度が99%だったことを挙げている(会社説明。いずれも外部調査であり、集計方法は会社資料からは確認できない)。

Macは前年比+28.7%の約104億ドルで、4〜6月期として初めて100億ドルを超えた(全期間の四半期記録はFY2022 Q1の108.52億ドルであり、会社も今回は「4〜6月期の売上記録」としている)。

牽引役は、2026年1〜3月期に投入された低価格帯のMacBook NeoとM5世代のMacBook Proである。注目したいのは価格帯を下げた効果で、会社は直近四半期の米国教育機関によるMacBook Neoの大口購入のうち「約半分がWindows機・Chromebookからの置き換えだった」と説明している(会社説明)。従来Appleが取り切れていなかった需要層に届き始めた、と読める数字である(筆者の解釈)。

法人領域でも、Morgan Stanleyが2万台超のiPhone 17を導入し、Crédit AgricoleがMacBook ProのオンデバイスAIで規制対応業務の手作業時間を80%超削減したといった事例が示された(会社説明。いずれも会社が挙げた事例であり、第三者による検証は行われていない)。

図6:Apple Q3 FY2026 製品カテゴリ別売上の前年同期比(表3を成長率の高い順に並べ替えたもの。引用:Apple連結財務諸表、成長率は筆者計算)

地域別に見ると、成長は特定市場に偏っていない。欧州が+22.4%、大中華圏が+22.4%と全社平均を大きく上回り、米州+11.1%、その他アジア太平洋+15.6%、日本+13.4%と全セグメントが二桁増収である。とくに大中華圏は、FY2025通期では前年比▲3.8%と減収だった市場が二桁増収へ転じており、今回の決算で目立つ変化のひとつだ(筆者計算)。ただし大中華圏の約188億ドルは、報道ベースの市場予想約195億ドルには▲3.5%届いていない(市場予想はfxleaders報道をTech Timesが引用したもので、単一の二次情報である点に留意されたい)。

図7:Apple Q3 FY2026 地域セグメント別売上と前年同期比(引用:Apple連結財務諸表、成長率は筆者計算)

この成長を支える基盤として、会社はインストールベースが25億台超(累計販売台数ではなく、過去90日間にAppleのサービスへ接続した稼働中の端末数)、有料サブスクリプションが15億件超でいずれも過去最高だと開示した(会社説明)。

投資家にとっての論点は、この需要の強さが「いつ売上になるか」である。

クックCEOは供給制約について「通常の供給問題ではなく、需要予測の問題だ。iPhoneもMacも我々の予想を大きく上回っており、その予想自体も高かった」と述べた。ボトルネックは、自社SoC(System on Chip:CPUやGPUなどを1つのチップに統合した半導体)を製造する先端プロセスの生産能力にあるという(会社説明)。

つまり、売れないのではなく作れない。この場合、需要は消えずに後ろへずれるだけ、という見方が成り立つ。ただし待たされた顧客がiPhone 18世代を待つ側に回れば、Q4に立つはずだった売上は翌期以降へ流れる。後倒しなのか消滅なのかは、次回決算のiPhone売上とアップグレード件数で判断できる(筆者の見立て)。

4. Q4 FY2026ガイダンスは+9〜11%、市場予想に届かず

まず当期実績の位置づけを整理する。前回(Q2 FY2026)決算時に会社が示したQ3ガイダンスは、売上高が前年比+14〜17%、粗利率47.5〜48.5%、営業費用188〜191億ドルだった(売上・粗利率はQ2 FY2026決算電話会議トランスクリプト、営業費用レンジはAppleInsider報道による)。実績はそれぞれ+16.4%(レンジ中心値+15.5%を上回る)、48.1%(関税還付除き、中心値と一致)、約191億ドル(レンジ上限近辺)である。会社自身のガイダンスに対しては売上が上振れ、利益率は中心値どおり。コンセンサスに対しても売上+0.7%・EPS+6.9%のビートだった。実績だけを見れば、文句のつけにくい決算だったと言っていい。

問題はその先である。会社はQ4について、売上成長率を前年比+9〜11%と示した。Q3の+16.4%から約5〜7ポイントの減速であり、その内訳として会社は①為替が前四半期比で成長率に約2.5ポイントの逆風、②供給制約の影響が前四半期比で著しく増加、の2要因を挙げた。パレクCFOは「この2要因を合わせると、6月期の全社成長率にかなり近づく」と述べており、需要そのものの鈍化ではないという整理である(会社説明)。

指標

会社ガイダンス(レンジ/中心値)

市場予想

前年同期(Q4 FY2025)

前年比・対市場予想

売上高

1,116.9〜1,137.4億ドル
中心値1,127.1億ドル

約1,147.6億ドル

1,024.66億ドル

前年比+9〜11%(中心値+10%)
対市場予想▲1.8%

GAAP粗利率

47.0〜48.0%
中心値47.5%

---

47.2%

前年比+30bp(中心値)
当期実績比▲260bp

営業費用

191〜194億ドル

---

159.14億ドル

+20〜22%

OI&E(営業外損益)

約3.5億ドル

---

3.77億ドル

少数株式投資の時価評価影響を除く(会社説明)

税率

約16.5%

---

16.3%

+20bp

iPhone売上

前年比mid-teens(10%台半ば)

---

490.25億ドル

為替・供給制約の影響を含む(会社説明)

サービス売上

為替の前四半期比逆風約2.5ポイントを除けばQ3とほぼ同水準の成長率

---

287.50億ドル

会社説明

引用:Apple Q3 FY2026 決算電話会議トランスクリプト、市場予想はTech Times報道

  • 市場予想の+12%成長はLSEG集計とされるが、Tech TimesがCNBC報道を引用したもので、一次集計への直接確認はできていない。
  • 売上高の金額レンジと対市場予想の乖離率は、成長率レンジを前年同期実績に適用した筆者換算であり、会社および集計元が金額で示したものではない。
  • 粗利率ガイダンスには関税還付による約1ポイントの押し上げが含まれる。寄与はQ3の約2ポイントから半減する想定で、これが粗利率ガイダンスの低下要因のひとつである。

ガイダンスの中心値から筆者が機械的に算出すると、Q4のGAAP希薄化後EPSは約1.98ドルとなる(売上1,127.1億ドル×粗利率47.5%-営業費用192.5億ドル+OI&E 3.5億ドル、税率16.5%、希薄化後株式数146.2億株を仮定した筆者計算。株式数の仮定次第で0.02ドル程度変動する)。前年同期の1.85ドルに対して+7%程度にとどまり、Q3の+28.7%から大きく減速する計算である。

なお、Appleは通期の包括的なガイダンスを開示していない。四半期ごとに翌四半期のみの見通しを示す方針であり、パレクCFOは電話会議で「9月期を超える期間については何ら見通しを示さない」と明言した(会社説明)。したがって通期見通しの「据え置き/上方修正/下方修正」という論点はAppleには存在しない。

図8:Apple Q4 FY2026ガイダンスと市場予想の比較(引用:Apple決算電話会議、市場予想はLSEG集計の報道ベース。金額は筆者換算)

当期実績とコンセンサスの乖離を項目別に見ると、全社ではビートでも中身にばらつきがあることがわかる。Macが+18.4%と突出したビートで全社を押し上げた一方、投資家が最も注視するサービスは▲1.5%、iPadは▲10.5%、大中華圏は▲3.5%のミスである。Appleの株価バリュエーションが高マージンかつ継続課金のサービス事業に支えられている構造を踏まえると、「ハードでビートしてサービスでミスする」組み合わせは、全社の数字が良くても市場評価には結びつきにくい(筆者の解釈)。なお、ここで用いたカテゴリ別の市場予想(Mac約87.4億ドル、サービス約312.2億ドル、iPad約69.2億ドル、ウェアラブル等約78.2億ドル)はAppleMagazine1社の報道による単一集計であり、集計元により乖離率は変動する。

図9:Apple Q3 FY2026 実績とコンセンサスの乖離(引用:Apple連結財務諸表、市場予想はLSEG・報道ベース。乖離率は筆者計算)

5. Apple株の投資論点への影響

以下の論点整理は、会社開示の事実に基づく筆者の分析である。

論点①:iPhoneの買い替えサイクルとインストールベース

iPhone売上は前年比+21.7%、全地域セグメントで4〜6月期の記録を更新し、アップグレード件数も4〜6月期の記録となった(会社説明)。インストールベースは25億台超で過去最高であり、次のiPhone 18サイクルに向けた買い替え候補の母数は拡大している。会社は9月期のiPhone売上をmid-teens(10%台半ば)の成長と見込んでおり、これは為替と供給制約を織り込んだうえでの二桁成長である。

論点②:サービス事業の成長持続性

サービス売上は約307億ドル(+12.1%)で4〜6月期の記録ではあるが、前四半期の+16.3%(筆者計算)から減速し、報道ベースのコンセンサスも▲1.5%下回った。サービス粗利率も前四半期比▲110bpである。

会社側の説明は前向きだ。パレクCFOは、広告・App Store・AppleCare・Apple Music・Apple TV+で4〜6月期の記録、クラウドサービスと決済サービスでは全期間を通じた記録を達成し、全カテゴリで記録を更新したと述べている。取引アカウント数・有料アカウント数もいずれも過去最高で、新興国では双方が二桁成長だという(会社説明)。減速の主因も為替だと整理している。

それでも判定を「後退」としたのは、減速幅が為替だけで説明しきれるか現時点では検証できないためである。報道ではApp Storeに関する各国の規制変更や、ゲーム分野の弱さも指摘されている(報道ベース)。有料サブスクリプション15億件超という基盤は強固でも、成長率の水準は投資家が織り込んでいた前提より一段低いところで推移している。サービスはAppleの利益率を支える中核であり、成長率が2〜4ポイント動くだけで株価の前提が変わる。次四半期に為替調整後でQ3並みの成長率へ戻るかが分岐点になる(筆者の解釈)。

論点③:粗利率とメモリーコスト

表面上の粗利率50.1%は過去最高水準だが、前述のとおり約2ポイントは関税還付という一時要因である。パレクCFOは粗利率の前四半期比変動の100%超がメモリーコストで説明できると述べ、クックCEOは3月期・6月期と連続してメモリー価格が上昇し、9月期はさらに高くなると説明した(会社説明)。クックCEOはDRAM市場が3社に集中している構造に言及し「供給元が増えれば供給面では助けになる。価格面については不透明だ」と述べており、コスト圧力の解消時期を会社自身が見通せていない(会社説明)。

論点④:供給制約とCEO交代というタイミングの重なり

今回の電話会議はクックCEOにとって最後の決算説明であり、9月1日付でジョン・ターナス氏がCEOに就任する。ターナスCEOは2001年入社、2021年からハードウェアエンジニアリングを統括してきた人物で、クックCEOはExecutive Chairmanとして取締役会に残る。交代の翌月にはiPhone 18の発表と会計年度末が控えており、新CEOは就任直後に「メモリーコストの上昇をどこまで価格に転嫁するか」という難題に直面する。供給制約が需要の天井として作用する局面と経営体制の移行が重なった点は、これまでのAppleの投資論点にはなかった新しい変数である。

リスク要因

以下は将来起こり得る事象に関する筆者整理のリスクシナリオであり、発生を予測するものではない。

今回の決算で新たに強まったリスク

  • メモリー価格の継続的な上昇。 会社自身が9月期以降のさらなるコスト上昇を織り込んでおり、持ち越し在庫による相殺効果は「9月期を超えると逓減する」と説明している(会社説明)。
  • 先端プロセスノードの供給能力。 自社SoCの生産能力がAI向け需要と競合する構造は、Apple単独の努力では短期に解消しにくい。
  • 値上げによる需要の毀損。 MacとiPadではすでに値上げが実施されており、iPhone 18世代での価格改定が販売数量に与える影響は未検証である。

以前から続く構造的リスク

  • サービス事業に対する規制。 App Storeのルール、手数料、既定アプリ、プラットフォーム開放をめぐる各国規制の動向は、最も利益率の高い事業に直接影響する。
  • 大中華圏の競争環境。 当期は+22.4%と回復したが、コンセンサスには届かず、現地メーカーとの競争は継続している。
  • 為替。 会社は9月期に成長率へ約2.5ポイントの逆風を見込んでおり、ドル高が続けば報告ベースの成長率は一段と圧縮される。

6. Apple株のバリュエーションと株価反応 ― 3営業日で約9%安

株価は決算発表前の7月30日に333.43ドル(前日比▲1.41%)で通常取引を終え、決算発表後の時間外で311.25ドル(▲6.65%)まで下落した。翌7月31日の終値は308.91ドル(前日比▲7.4%)、8月3日終値は303.42ドル(前日比▲1.78%)で、発表前終値からの累計下落率は▲9.0%である(いずれも終値ベース、筆者計算)。

決算発表直前の7月28日には時価総額が一時5兆ドルを超え、Nvidiaを抜いて世界最大となっていたが、8月3日終値時点の時価総額は4.43兆ドルまで縮小した(報道ベースおよびstockanalysis.com掲載データ)。

好決算にもかかわらず売られた理由は、業績要因というより期待値要因である。決算前の株価は2026年年初来で20%超上昇していたと報じられており(報道ベース)、実績PER約35倍という水準は、①二桁増収の継続、②サービスの高成長、③粗利率の維持、の3つがそろって初めて正当化される。今回はこのうち②と③に疑問符が付き、さらに次四半期の成長率がコンセンサスを下回った。オプション市場は決算前後の変動幅を±3%程度と織り込んでいたと報じられており(報道ベース)、実際の下落幅はその想定を大きく超えた。一時5兆ドルまで買われた水準では、ガイダンスがコンセンサスをわずかに下回るだけで株価が大きく調整し得る。今回の約9%下落も、この文脈で説明できる部分が大きい。

※2026年8月3日終値時点

指標

備考

株価

303.42ドル

前日比▲1.78%

時価総額

4.43兆ドル

発行済株式数145.9億株

52週レンジ

201.68〜344.57ドル

高値は決算前に更新

実績PER(TTM)

34.81倍

TTM(Trailing Twelve Months=直近12カ月)EPS 8.72ドル

予想PER

33.17倍

集計元により差がある

配当利回り

0.36%

年間配当1.08ドル

TTM売上高

4,668.2億ドル

前年比+14.2%

TTM純利益

1,289.3億ドル

前年比+29.9%

アナリスト目標株価

324.01ドル

46名の平均、レーティングは「Buy」

引用:stockanalysis.com(データ提供:S&P Global Market Intelligence、CBOE)株価反応はInvesting.com報道およびTech Times報道

  • 株価・時価総額・バリュエーション指標はいずれも取得時点(2026年8月4日)の値であり、常に変動する。予想PERの分母となる予想EPSは集計元によって異なるため、他社サイトの数値と一致しない場合がある。
  • 7月31日の終値308.91ドルは、stockanalysis.comが8月3日時点で表示した「前日終値」欄の値である。
  • 発行済株式数145.9億株も同サイトの取得時点の値であり、Appleが6月27日時点の貸借対照表で開示した146億0,896万株とは基準日が異なる。52週レンジは同サイトの201.68〜344.57ドルを採用したが、Investing.comは下限を201.50ドルとしており、集計元により差がある。
  • PEGは、決算後の同一基準・同一時点の信頼できる集計値を確認できなかったため記載していない。

スマートフォンとPCは循環性のある市場であり、Appleも過去には減収局面を経験している。直近ではFY2023に前年比▲2.8%、FY2024も+2.0%と成長率が一桁前半にとどまった時期があった(過去の開示に基づく筆者計算)。現在の二桁増収と実績PER35倍という組み合わせを恒常的な水準と見なすのは早い。一方で、ネットキャッシュ約622億ドル、四半期営業CF約344億ドルという財務基盤は、需要が一時的に鈍化しても自社株買いと配当を継続できる耐性を示している。割安・割高の判断は読者それぞれの前提に依存するため、本記事では立ち入らない。

7. まとめ:Apple Q3 FY2026決算のポイント

確定事実ベースで総括すると、今回は実績は市場予想を上回り、次期見通しは市場予想に届かなかった決算である(いわゆるbeat-and-lower-guide)。売上高約1,094億ドル、GAAP EPS 2.02ドル、粗利率50.1%はいずれも4〜6月期として過去最高で、会社自身の前回ガイダンスも上回った。同時に、Q4の売上成長率ガイダンス+9〜11%は市場予想に届かず、粗利率ガイダンス47.0〜48.0%は当期実績から2.6ポイント低い。

株価が3営業日で約9%下落したのは、業績要因ではなく期待値要因の色彩が濃い。実績のビート幅は売上+0.7%・EPS+6.9%だが、EPSビートの大半は前述の関税還付0.11ドルで説明でき、これを除けば+1.1%である(筆者計算)。決算前に一時5兆ドルの時価総額を付けていた株価が織り込んでいたのは、この程度のビートではなかったということだろう。

個人的には、今回の決算で最も重要なのは単四半期の利益率ではなく、Appleが初めて「需要はあるが供給が追いつかない」という制約を明示的な減速要因としてガイダンスに織り込んだ点だと考える。供給制約は需要の消滅と違って売上を後倒しにするだけとも言えるが、その先送りがiPhone 18サイクルとCEO交代というタイミングに重なっているため、通常の在庫調整より読みにくい。値上げがどこまで販売台数を落とさずに通るかが、次の12カ月の実質的な焦点になる(筆者の見解)。

次の焦点は4点である。

  1. Q4 FY2026決算(2026年10月下旬発表見込み。外部の金融情報カレンダーベースであり、Apple投資家向けサイトでの最終確認が必要)における売上成長率+9〜11%と粗利率47.0〜48.0%の達成度。
  2. iPhone 18世代の価格設定と、値上げが販売数量に与える影響。
  3. サービス売上の成長率が、為替調整後にQ3水準(+12%)を維持できるか。
  4. メモリー価格の動向と、Samsung・SK Hynix・Micronの決算に示される需給見通し。

あわせて、9月1日に就任するターナスCEOが最初の決算説明会で何をKPIとして示すかも確認しておきたい。

出典

免責

本記事は、2026年8月4日までに公開された情報に基づく客観的な整理であり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。Appleの会計年度は9月の最終土曜日に終了し、本記事の対象であるQ3 FY2026は2026年6月27日を末日とする四半期です(FY表記は会計年度の終了年を指します)。金額はすべて米ドル建てで、特記のない限り会社のUS GAAPベースの数値です。AppleはFY2024第4四半期の一時的な税金費用に係る調整を除き、四半期決算で非GAAP指標を定例開示していません。本文では、①会社IR・SEC提出資料の確定値、②決算電話会議での会社説明、③報道ベースの数値(コンセンサス、株価反応、アナリスト評価)、④筆者自身の計算・解釈を区別して記載しています。株価、時価総額、市場予想、バリュエーション指標は取得時点の値であり、常に変動します。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。