記録更新の四半期。増収額の約9割をデータセンターが占める構造。次期ガイダンスは売上130億ドル±3億ドルで市場予想超え、ただし非GAAP粗利率は据え置き。株価は決算翌営業日に▲7.0%。設備投資は前年同期の3倍近くに膨らみ、フリーキャッシュフローのマージンは前四半期から11.5ポイント低下した。

※金額は米ドル建て、特記なき限り会社のUS GAAPベース。市場予想は報道ベースで、指標ごとに集計元が異なり、同じ指標でも集計元により差がある(各表の引用元を参照)。bp(ベーシスポイント)は0.01%、pt(ポイント)は率の変化幅を表す単位で、以下同様に用いる。本文では、会社IR・SEC提出資料の確定値、決算説明会での会社説明(会社説明)、報道ベースの数値(報道ベース)、筆者自身の計算・解釈(筆者計算・筆者分析・筆者の解釈)を区別して記載する。

1. 決算サマリー:売上・非GAAP EPSとも市場予想を上回り、会社ガイダンスのレンジ上限も超えた

Advanced Micro Devices(AMD)は2026年8月4日、第2四半期(4〜6月期)の決算を発表した。同社が5月に示していた売上ガイダンスは112億ドル±3億ドルで、実績はそのレンジ上限をわずかに超えた。市場予想に対しても売上・非GAAP EPSの両方で上振れており、数字の並びとしては素直な「上振れ決算」である。

ただし上振れ幅は大きくない。売上の対市場予想は1桁台前半、非GAAP EPSも同様で、決算前の期待値がどこにあったかによって受け止め方が分かれる水準だった。株価が下落した理由は第6章で扱う。

表1:AMD Q2 FY2026 決算サマリー

指標

実績

前年同期

前年比

市場予想

対市場予想

売上高(百万ドル)

11,536

7,685

+50.1%

11,284

+2.2%

GAAP希薄化後EPS(ドル)

1.38

0.54

+158.8%

開示なし

---

参考:GAAP希薄化後EPS(長期投資の評価益0.29ドルを控除後)

1.09

---

---

---

---

非GAAP希薄化後EPS(ドル)

1.66

0.48

+247.2%

1.62

+2.7%

データセンター売上高(百万ドル)

6,718

3,240

+107.3%

約6,500

+3.4%

非GAAP粗利率

56.2%

43.3%

+13.0pt

約56%(会社ガイダンス)

+0.2pt

引用:AMD「AMD Reports Second Quarter 2026 Financial Results」Yahoo Finance(Bloomberg集計コンセンサス、2026年8月3日時点)AMD Q1 2026決算プレスリリース(会社ガイダンスの出所)
注1:EPSの前年比は開示EPSの丸め値ではなく、純利益÷希薄化後株式数の未丸め値で算出(筆者計算)。丸め値では GAAP +155.6%、非GAAP +245.8% となり、それぞれ3.2pt・1.4pt の差が出る。
注2:長期投資の評価益483百万ドル(税引前)は非GAAP調整表でEPS換算0.29ドルとされている。
「1.09ドル」はこの税引前ベースの金額をGAAP EPSから単純に差し引いた参考値である。非GAAP調整表の税効果は全項目を合算した1行(0.10ドル)でしか開示されておらず、評価益単独の税効果は分離できない。GAAP実効税率9.9%で概算した場合の税引後影響は約0.26ドルとなり、控除後EPSは約1.12ドルになる(筆者計算)。前年同期は不確実な税務ポジション引当の戻入(EPS換算+0.52ドル)と、MI308輸出規制に伴う在庫関連費用800百万ドルという逆方向の一時要因が同居しており、比較可能な調整後の数値を提示できないため「---」とした。実力ベースの前年比較は非GAAP行が担う。
注3:データセンターの市場予想は「6.5十億ドル」という丸め値のため、対市場予想も概算(筆者計算)。

2. 売上高115.36億ドルの増収額38.51億ドルは、その90%をデータセンター1セグメントが説明する

全社売上は前年同期比で1.5倍、前四半期比では+12.5%となった。増収額のうちデータセンターの寄与は34.78億ドルで、増収額全体に占める比率は90.3%になる(筆者計算)。前年同期に42.2%だったデータセンターの構成比は58.2%まで上がり、いまやAMDの売上は「データセンター事業とその他」という構造で読むほうが実態に近い。

推移とQ3 2026ガイダンス(引用:会社決算発表等)

セグメント営業利益で見ると、この偏りはさらに際立つ。データセンターの営業利益は全社営業利益を上回っており、本社費用や無形資産償却などを含む「その他」の10億ドル超の費用を、データセンターと他2セグメントの利益で吸収している構図になっている。

売上高と全社売上に占める構成比(引用:会社決算発表等)

一方でクライアント&ゲーミングは伸び悩んだ。CPU中心のクライアントが2桁増を維持したのに対し、ゲーミングはセミカスタム(顧客専用に設計するシステムオンチップ。ゲーム機向けが中心)の減少で3割減となり、セグメント全体では1桁台前半の増収にとどまった。会社側はメモリなど部材コストの上昇でグラフィックスカードの店頭価格が上がり需要を圧迫したと説明している。下期についても、決算電話会議でリサ・スー氏が、メモリと部材コストの高騰が需要を圧迫するためPC市場は軟化すると想定しており、そのなかでクライアント事業は市場を上回る成長を見込むという趣旨の説明をしている(会社説明)。エンベデッドは複数の最終市場で需要が改善し、2桁の増収に戻った。

製品の受注残をAMDは開示していない。四半期報告書で開示される残存履行義務(RPO)は2026年6月27日時点で222百万ドル、うち144百万ドルが今後12か月で収益認識される見込みだが、これは当初契約期間が1年超の開発・エンジニアリングサービスやIPライセンスなどに限られ、売上の大半を占める製品出荷は含まない。したがって先行指標としては使えない。代わりに読めるのは、直近に公表した大口コミットメントである。なかでもAnthropicとの、MI450シリーズを最大2ギガワット分Helios(ラックスケールのAIサーバー製品)で展開する提携と、Microsoft Azureへの大規模導入は、Instinct GPUの数量が四半期単位ではなく年単位の枠で積み上がりうることを示す点で意味がある。ただしこれらは金額が開示されていないため、売上への反映時期と規模は現時点では検証できない。

表2:AMD セグメント別売上高・営業利益(Q2 FY2026)

セグメント

Q2'26
売上高

Q2'25
売上高

前年比

Q1'26
売上高

前四半期比

構成比

Q2'26
営業利益

営業
利益率

データセンター

6,718

3,240

+107.3%

5,775

+16.3%

58.2%

2,103

31.3%

 クライアント

3,062

2,499

+22.5%

2,885

+6.1%

26.5%

---

---

 ゲーミング

779

1,122

▲30.6%

720

+8.2%

6.8%

---

---

クライアント&ゲーミング 計

3,841

3,621

+6.1%

3,605

+6.5%

33.3%

582

15.2%

エンベデッド

977

824

+18.6%

873

+11.9%

8.5%

386

39.5%

その他(全社費用等)

---

---

---

---

---

---

▲1,081

---

合計

11,536

7,685

+50.1%

10,253

+12.5%

100.0%

1,990

17.3%

引用:AMD Q2 2026決算プレスリリース「SELECTED CORPORATE DATA」
注1:単位は百万ドル。セグメント売上の合計は消去項目なしで連結売上高と一致する。構成比の合計も100.0%で一致する。
注2:クライアントとゲーミングは売上高のみの内訳開示で、営業利益はクライアント&ゲーミングの合算でのみ開示される。
注3:「その他」は取得関連無形資産の償却、株式報酬費用、買収関連費用など各セグメントに配賦されない費用・収益。セグメント営業利益の合計(2,103+582+386-1,081)は連結営業利益1,990と一致する。

3. 非GAAP営業利益率は26.8%へ15.2ポイント改善したが、粗利率の改善は前四半期比+0.8ポイントにとどまった

収益性は前年同期から大きく改善した。ただし前年同期の数字はMI308関連の在庫費用で押し下げられており、前年比の改善幅にはその反動が含まれる。実態に近いのは前四半期との比較で、そこでは粗利率がほぼ横ばい、営業利益率が2ポイント強の改善という姿になる。

つまり利益率の改善を主導しているのは、粗利率ではなく営業費用のレバレッジである。非GAAP営業費用は前年同期比で+40%と売上の伸びを下回らない勢いで増えているが、売上がそれを上回って伸びたため、売上に対する比率は下がった。研究開発費も3割超の伸びで、投資を抑えて利益を作っているわけではない。

粗利率については、比較の起点をもう少し広く取っておきたい。非GAAP粗利率は2025年10〜12月期の57%が直近のピークで、そこから2026年1〜3月期に55%へ下がり、当四半期に持ち直したところである。前四半期比では改善だが、半年前の水準にはまだ届いていない。

表3:AMD 利益率・EPSの推移

指標

Q2'25

Q1'26

Q2'26

前四半期比

前年同期比

GAAP粗利率

39.8%

52.8%

53.8%

+1.0pt

+14.0pt

非GAAP粗利率

43.3%

55.4%

56.2%

+0.8pt

+13.0pt

GAAP営業利益率

▲1.7%

14.4%

17.3%

+2.9pt

+19.0pt

非GAAP営業利益率

11.7%

24.8%

26.8%

+2.1pt

+15.2pt

非GAAP営業費用/売上高

31.6%

30.7%

29.4%

▲1.3pt

▲2.2pt

GAAP希薄化後EPS(ドル)

0.54

0.84

1.38

+65.2%

+158.8%

非GAAP希薄化後EPS(ドル)

0.48

1.37

1.66

+21.2%

+247.2%

調整後EBITDA(百万ドル)

1,086

2,746

3,315

+20.7%

+205.2%

引用:AMD「Q2 2026 GAAP and Non-GAAP Earnings Tables」
注1:利益率は会社開示の丸め値(54%、56%など)ではなく、金額から算出した原数値ベース(筆者計算)。会社開示の丸め値とは最大0.5pt程度ずれる。
注2:EPSの増減率は純利益÷希薄化後株式数の未丸め値で算出(表1注1と同じ基準)。
注3:Q2'25の各指標にはMI308輸出規制に伴う在庫関連費用800百万ドルが含まれ、GAAP・非GAAPのいずれからも除外されていない。

EPS:GAAPと非GAAPの0.28ドル差は、無形資産償却と株式報酬が押し上げ、投資評価益が打ち消す構成

GAAPと非GAAPのEPS差0.28ドルの主な内訳は、取得関連無形資産の償却0.33ドルと株式報酬0.30ドルが押し上げ、長期投資の評価益0.29ドルと税効果0.10ドルが押し下げる構成になっている(残る0.04ドルは買収関連費用、訴訟引当、非継続事業の調整)。前者2項目は買収を重ねてきた企業に恒常的に生じる費用で、今後も同程度の規模で続く可能性が高い。後者の評価益は当期に規模が突出して大きく(前四半期は0.04ドル、2025年10〜12月期は0.17ドル)、これを税引前ベースで単純に差し引くとGAAP EPSは1.09ドルになる。

株式数の影響も確認しておく。希薄化後株式数は前年同期から+1.8%増えている。GAAP純利益は+163.4%、すなわち2.634倍だったので、これを株式数の1.018倍で割ると2.588倍、EPS成長率にして+158.8%となり、未丸め値と一致する。非GAAPも同様に、純利益+253.4%(3.534倍)が株式数増加で+247.2%(3.472倍)に薄まる関係が成り立つ(いずれも筆者計算)。開示EPSの丸め値どうしで割り算をすると、GAAPで3.2pt、非GAAPで1.4pt低く出るため、成長率を語るときは未丸め値を使うほうが安全である。

キャッシュフローと資本配分:設備投資が3倍近くに増え、FCFマージンは13.5%へ低下

営業キャッシュフロー(継続事業)は前四半期の2,955百万ドルから2,366百万ドルへ減った。売上が2桁伸びるなかでの減少で、主因は運転資本である。売上債権の増加が1,246百万ドルのキャッシュ流出となり、前年同期が330百万ドルの流入だったのと逆方向に振れた。仕入債務の2,274百万ドルの増加がこれを埋めたものの、費用・その他負債の減少で相殺されている。

そこに設備投資の急増が重なった。フリーキャッシュフローは営業キャッシュフロー2,366百万ドルから設備投資808百万ドルを差し引いた1,558百万ドルで、控除項目は設備投資のみである(会社の定義。純額調整は行われていない)。前年同期比では増えているが、売上に対するマージンは前四半期の25.0%から13.5%へ落ちた

営業キャッシュフロー・設備投資・フリーキャッシュフロー(引用:会社決算発表等)

貸借対照表は依然として強い。現金・現金同等物と短期投資の合計13,111百万ドルに対し有利子負債は3,226百万ドルで、ネットキャッシュは9,885百万ドルある(筆者計算)。棚卸資産は2025年12月末比で+6.9%と、売上の伸びに比べれば抑制されており、在庫の積み上がりを示す動きは見られない。一方で売上債権は同+15.3%と売上の伸びに近いペースで増えており、これが営業キャッシュフローの重石になっている。資本配分は投資側に傾いた。当四半期の自社株買いはゼロで、上期累計でも221百万ドルにとどまる(前年同期の上期は1,227百万ドル)。配当は行っていない。設備投資と長期投資、買収に資金を振り向けている局面と読める(筆者分析)。なお前四半期末に7,421百万ドルあった自己株式は当四半期末にゼロとなった。同時に資本剰余金が2,483百万ドル、利益剰余金が2,173百万ドル減っており(当四半期の純利益計上後の純額)、自己株式の消却として処理されたものとみられる(筆者分析)。

4. Q3ガイダンスは売上中心値130億ドルで市場予想を3.8%上回る一方、非GAAP粗利率は約56%で据え置かれた

当四半期の実績を評価軸ごとに並べると、対市場予想は売上・EPSとも小幅な上振れ、対会社ガイダンスは売上でレンジ上限超え、非GAAP粗利率はガイダンスどおり、となる。「予想は超えたが、超え方は控えめ」という整理になる。

次期ガイダンスも同じ構図である。売上は市場予想を明確に上回る一方、非GAAP粗利率は当四半期と同じ水準に置かれた。売上が2桁で伸びるのに粗利率が動かないという設定で、会社側はHeliosとMI400シリーズの立ち上げ期にあたり、当面はAIアクセラレータ比率の上昇が全社粗利率を押し下げる方向に働くと説明している(会社説明)。

AMDはEPSガイダンスを出していない。ただし売上・粗利率・営業費用の3つが示されれば、非GAAP EPSは機械的に試算できる。計算過程は次のとおりである(筆者計算)。売上中心値13,000百万ドル×非GAAP粗利率56%=非GAAP粗利7,280百万ドル。ここから非GAAP営業費用3,650百万ドルを引くと非GAAP営業利益は3,630百万ドル(営業利益率27.9%)。非営業損益を当四半期並みの+78百万ドル(受取利息等115-支払利息37)と置くと税引前利益は3,708百万ドル、会社が2026年度に用いる非GAAP税率13%を適用して純利益3,226百万ドル、希薄化後株式数を1,670百万株と置くと1.93ドルになる。同じ手順を当四半期に当てはめると非GAAP純利益は2,760百万ドルとなり実績と一致するため、手法自体の妥当性は確認できている。

なお、AMDは通期ガイダンスを提示していない。したがって「通期見通しが引き上げられたか」という論点はそもそも存在しない。第2四半期時点で下期の方向感を示すのは、決算プレスリリースに掲載されたジーン・フー最高財務責任者の「2026年下期はデータセンターの売上が加速し、全社の増収率の上昇と利益拡大につながると見ている」というコメントにとどまる。

表4:AMD Q3 FY2026 ガイダンス

指標

ガイダンス(レンジ/中心値)

市場予想

前年同期(Q3'25)

前年比

対市場予想

売上高(百万ドル)

12,700〜13,300/13,000

12,520

9,246

+40.6%

+3.8%

非GAAP粗利率

約56%

---

54%

+2pt

---

非GAAP営業費用(百万ドル)

約3,650

---

---

---

---

参考:非GAAP希薄化後EPS(筆者試算)

約1.93ドル

1.89ドル

1.20ドル

+60.8%

+2.1%

通期(2026年12月期)

会社はガイダンスを提示していない

引用:AMD Q2 2026決算プレスリリース「Current Outlook」Investing.com(決算電話会議トランスクリプト、非GAAP営業費用)BigGo Finance(Q3市場予想)AMD Q3 2025決算プレスリリース(前年同期の実績)
注1:会社の表現は「約130億ドル、±3億ドル」。レンジ・中心値・前年比・対市場予想はいずれも中心値ベースで算出した(筆者計算)。会社が示した前年比は「約41%」で、原数値ベースの+40.6%と整合する。
注2:非GAAP営業費用は決算電話会議での会社説明を伝えた報道ベース。プレスリリースには記載がない。
注3:参考EPSは本文に示した手順による筆者試算であり、会社のガイダンスではない。市場予想EPSは売上コンセンサスとは別媒体の集計で、集計元が異なる点に留意されたい。

5. ポジティブ材料はデータセンターにほぼ集約され、リスクは粗利率・キャッシュ変換・顧客集中に分散している

以下は当四半期の開示から筆者が整理したポイントである。判断の材料を有利・不利に分けて並べたもので、優劣を採点したものではない。

ポジティブ要因

  • データセンターの牽引が利益面まで及んだ。セグメント営業利益は全社営業利益を上回り、他セグメントと本社費用の負担を吸収する立場になった。
  • 営業費用のレバレッジが効いている。研究開発費を3割超増やしながら、売上に対する非GAAP営業費用の比率は前年同期から2.2ポイント下がった。
  • 次期ガイダンスが市場予想を上回った。売上の伸びは前四半期から加速する見通しで、会社は下期のデータセンター売上がさらに加速するとしている。
  • 大口コミットメントが積み上がっている。AnthropicとのHelios展開の枠組みとMicrosoft Azureへの導入は、数量が四半期単位ではなく年単位で積み上がりうることを示す。

リスク要因

以下は筆者整理のリスクシナリオであり、発生を予測するものではない。

  • 粗利率の下押しが長引くこと。AIアクセラレータの構成比上昇が粗利率を押し下げる関係は、Helios/MI400の量産が進む下期以降にむしろ強まりうる。AMDが2025年11月のFinancial Analyst Dayで掲げた長期目標(今後3〜5年で売上高CAGR35%超、非GAAP営業利益率35%超、非GAAP EPS 20ドル超)への道筋が見えにくくなる。
  • 増収がキャッシュに変換されにくくなること。設備投資と売上債権が並行して増える局面が続けば、フリーキャッシュフローに反映されるまでのタイムラグが長くなる。自社株買いを再開する余地も狭まる。
  • 顧客の集中。大口のAI事業者との提携が成長の柱になる一方、単一顧客の投資計画の変更が数量に直結しやすくなる。AMDの四半期報告書には顧客別売上の集中度に関する注記がなく、外部から検証する手段が限られる。
  • 輸出規制と地政学。前年同期のMI308関連費用が示すとおり、規制変更は在庫評価を通じて損益に直接跳ね返る。中国向けの制度は依然として流動的である。
  • PC・ゲーミング市場の軟化。メモリを含む部材コストの上昇が最終価格に転嫁されれば、数量の落ち込みが続く。ゲーミングのセミカスタムは家庭用ゲーム機のサイクルにも左右される。
  • 供給制約。先端パッケージや高帯域幅メモリ(HBM。DRAMを積層し、GPUと同一パッケージ上に並べて搭載する広帯域のメモリ)の調達がボトルネックになれば、需要があっても出荷が伸びない。

6. 決算はbeat-and-raise。それでも翌営業日の株価が▲7.0%となったのは、前日に約8%上昇していた期待値の高さによる

この決算を1語で定義するならbeat-and-raiseである。ただしAMDは通期ガイダンスを出さないため、ここでいうraiseは「通期見通しの引き上げ」ではなく「次期ガイダンスが市場予想を上回ったこと」を指す。確定事実としては、増収・増益・ガイダンス上振れの3点が揃った四半期だった。

決算は8月4日の米国市場引け後に発表された。当日の通常取引でAMD株は約8%上昇しており、発表直後の時間外取引では一転して1桁台後半から10%程度の下落となった。翌8月5日の終値は482.05ドルで前日比▲7.0%、8月6日は+1.50%の489.28ドルと小幅に戻している(報道ベース、および取引所終値)。

この動きは業績要因ではなく期待値要因として説明するのが自然である(筆者の解釈)。過去12か月で3倍近くになった株価は、決算前日にも大きく上げていた。そこに提示された上振れ幅は、売上・EPSとも1桁台前半である。Futurumのチーフ・マーケット・ストラテジスト、シェイ・ボローア氏は「例外的な結果を織り込んだ株価だったが、実際は例外的な結果ではなかった」と述べており、分かれ目は決算の中身より織り込み度合いにあったことがうかがえる(報道ベース)。設備投資が前四半期比で倍増した点も、キャッシュフローの見積もりを修正させる材料として指摘された。

なお粗利率をめぐっては基準の取り違えが起きやすい。「粗利率54%が市場予想に届かなかった」という比較を見かけるが、54%はGAAPベースの実績で、比較対象とされたのは非GAAPベースの会社ガイダンスであり、そもそも基準が異なる。非GAAPで見れば会社ガイダンスどおりに着地している。ただし粗利率が実質的な論点だったこと自体は的を射ている。争点は当四半期の実績ではなく、Q3も据え置かれたことのほうだった(筆者の解釈)。

バリュエーションは実績PERと予想PERの開きが大きく、どちらを見るかで印象が変わる。半導体は循環性の強いセクターであり、直近の下降局面では2021年11月29日の終値161.91ドルから2022年10月13日の54.57ドルまで約66%下落した。現在の水準がAI需要の継続を前提としたものである点は押さえておきたい。

表5:AMD 株価とバリュエーション

項目

数値・内容

決算発表日(8/4)通常取引

終値 約518.6ドル(前日比 +約8%、報道ベース)

発表直後の時間外取引

▲8〜10%(報道ベース)

翌営業日(8/5)終値

482.05ドル(前日比▲7.0%)

8/6終値

489.28ドル(前日比+1.50%)

年初来騰落率

+115%(8/5時点、報道ベース)

過去12か月騰落率

+194%(8/3時点、報道ベース)

52週レンジ

149.22〜584.73ドル(8/6終値は高値比▲16.3%、安値比+227.9%)

時価総額

7,987億ドル

実績PER(GAAP、直近12か月)

124.9倍

予想PER

44.1倍

Q3ガイダンス基準の年換算PER(筆者計算)

63.4倍

配当利回り

---(無配)

PEG

記載しない(後述の注4参照)

ベータ

2.49

引用:StockAnalysis「Advanced Micro Devices (AMD) Stock Price & Overview」(2026年8月6日終値時点)Yahoo Finance(株価反応、年初来騰落率)Yahoo Finance(過去12か月騰落率)
注1:8月5日の▲7.0%は、8月4日終値約518.6ドル(報道ベース)に対する8月5日終値482.05ドルの下落率として算出した(筆者計算)。
注2:実績PERの分母となる直近12か月(2025年7〜9月期以降の4四半期)の利益には、2025年10〜12月期に計上されたMI308引当の戻入と長期投資の評価益が含まれており、その分だけかさ上げされている。予想PERは出所ページの掲載値だが、基準となる予想EPSがどの会計年度のものかは同ページに明示がない。いずれも成長率の前提とセットで確認する必要がある。
注3:年換算PERは、表4の参考EPS試算値1.93ドルを4倍した7.72ドルで8月6日終値を割ったもの(筆者計算)。1四半期のガイダンスを単純に年率換算した参考値であり、通期の予想EPSではない。
注4:PEGは、分母となる中長期の利益成長率について同一時点・同一集計元の信頼できる数値が取得できなかったため記載しない。
注5:当サイトは投資助言を行わないため、割安・割高の判断や目標株価は提示しない。

数字を追う立場からより重要なのは、成長の質が変わりつつあることだと考える。売上構成はデータセンターに一極化し、利益率の改善は粗利率ではなく営業費用のレバレッジが担い、キャッシュは設備投資と運転資本に吸われている。売上の伸びが利益とキャッシュにどう変換されるか、その変換効率がこれからの焦点になる。

次回決算までの確認ポイント

  1. 非GAAP粗利率が56%を上抜けるか。Helios/MI400の量産が進む局面で、ミックス悪化が一時的なのか構造的なのかが判別できる最初のデータ点になる。
  2. 設備投資の水準と会社の説明。当四半期の急増が一時的な前倒しなのか、通期を通じた新しい水準なのか。フリーキャッシュフローのマージンが持ち直すかどうかとあわせて見たい。
  3. データセンター以外の3セグメントの動き。とくにゲーミングの減少が下げ止まるか、そしてPC市場の軟化がクライアントの数量にどこまで及ぶか。
  4. 売上債権の増加ペース。売上の伸びを継続的に上回るようなら、回収条件や顧客構成の変化を疑う材料になる。
  5. 大口提携の売上計上時期。Anthropicとの2ギガワット規模の枠組みやMicrosoftとの展開が、どの四半期からデータセンター売上に反映され始めるか。

出典

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。金額はすべて米ドル建てで、AMDの会計年度は12月期、対象四半期は2026年6月27日を締め日とする第2四半期です。同社はUS GAAPに基づく数値に加えて非GAAP指標を開示しており、本記事では両者を区別して記載していますが、非GAAP指標は会社独自の定義によるもので他社と直接比較できない場合があります。株価・時価総額・PERなどの市場データは2026年8月6日終値時点のもので、その後変動します。市場予想は報道ベースであり集計元により差があるほか、記事中の試算値・評価は筆者自身の計算および解釈です。投資判断はご自身の責任で行ってください。