会社概要
TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited/台湾積体電路製造)は1987年設立、本社を台湾・新竹に置く半導体専業ファウンドリである。売上高ベースで世界最大のファウンドリであり、その位置づけは後述のTrendForce集計で裏づけられる。会計年度は暦年と一致し、12月31日を期末とする。したがって本記事の「FY2025」は2025年1〜12月を指す。米国預託証券(ADR)はNYSEに「TSM」で上場し、ADR 1単位=普通株5株に相当する。本記事の株価・ADR単位EPS・ADR配当はすべてこの換算基準に統一している。米国SECへの提出書類は外国民間発行体としてForm 20-F(年次)およびForm 6-K(適時開示)であり、10-K/10-Qは提出されない。
収益モデルはウェハ受託製造料が中心で、これに先端パッケージング、テスト、マスク製造等のサービスが加わる(会社はこれらの内訳売上を個別に開示していない)。顧客にはNVIDIA、AMD、Broadcom、Qualcommといったファブレス半導体企業に加え、自社設計チップを外部委託生産するシステム企業(Appleなど)が含まれる。提供プロセスはCMOSロジック、ミックスドシグナル、RF、組込メモリ、BiCMOSなど多岐にわたる。会社開示によれば、2025年実績で305種類のプロセス技術を用いて534社の顧客向けに12,682製品を製造した。従業員数は2025年末で90,557人である。
AI関連の需要は、AIアクセラレータの外側にも広がり始めている。会社の説明によれば、エージェンティックAI(人が逐一指示しなくても自律的に作業を進めるAI)が使われ出したことで、AIデータセンターにおけるCPUの役割が再び大きくなっている。アクセラレータに加えて、それを動かすCPUの分だけ必要なシリコンが上乗せされる、という見立てである。
TSMCにとって重要なのは、そのCPUがどの規格で設計されるかを問わない点だ。CEOのC.C. Wei氏は2026年7月16日の決算説明会で「x86でもARMベースでもRISC-Vでも、その大半はTSMCの顧客である」と述べた(x86・ARM・RISC-VはいずれもCPUの命令セット、つまり設計の土台となる規格である)。規格間の競争でどれが優勢になっても、製造の受け皿はTSMCになりやすい。
競合は領域によって異なる。先端ロジック(GAA世代を含む最先端ノード)ではSamsung FoundryとIntel Foundryが競合し、特定用途・成熟ノードではUMC、GlobalFoundries、SMIC、Hua Hong、PSMC、Nexchipなどが挙げられる。SMICは中国市場向けに先端寄りのノードも手掛けており成熟ノード専業ではない。また各社のノード呼称(「2nm」など)はメーカーごとに定義が異なり、TSMCのN5/N3/N2と直接同一視はできない。先端パッケージングではIntel(EMIB-T等)およびOSAT各社が競合する(技術の提供・開発は公表されているが、顧客採用状況や量産規模までは本記事では確認していない)。
第三者集計市場地位について、調査会社TrendForceの集計では2026年第1四半期(1Q26)の世界ファウンドリ売上シェアはTSMCが72.3%(前四半期70.4%)、2位Samsungが6.5%で、差は65.8ポイント、倍率では約11倍となる。これはファウンドリ売上全体のシェアであり、先端AI半導体に限定したシェアではない点に留意したい。先端AI半導体市場における個別シェアを定義した資料は本記事では確認していないため、「独占」といった表現は用いない。
主要ポイント
- ファウンドリ売上シェア72.3%(1Q26、TrendForce集計):第三者集計 2位Samsungの6.5%に対し約11倍。2Q26のウェハ売上のうち7nm以下の先端技術が77%を占める。
- HPCが売上の66%へ:確定実績 2Q26のHPCは前四半期比+20%、構成比は1Q26の61%から66%へ拡大した。通期でもFY2024の51%からFY2025は58%へ上昇している。
- 収益性が過去最高水準:確定実績 2Q26は粗利率67.7%、営業利益率60.3%、純利益率55.6%。年度ベースでも営業利益率は42.6%(FY2023)→50.8%(FY2025)へ改善した。
- 2026年通期見通しを上方修正:会社見通し USDベース売上成長率を「30%超」(1Q26時点)から「40%をやや上回る」(2Q26時点)へ引き上げ。
- 設備投資はUS$600〜640億へ引き上げ:会社見通し 2026年1月時点のUS$520〜560億から7月に増額。加えてアリゾナへ追加US$1,000億の投資を発表し、同州の累計投資計画額はUS$2,650億となった(支出済額ではない)。
プラットフォーム別売上(用途別区分)
まず区分の整理から。TSMCの財務諸表上の報告セグメントはファウンドリ事業の単一セグメントであり、以下で扱う「プラットフォーム」は用途別の売上内訳である。会社はプラットフォーム別の売上構成比と増減率を四半期・通期の双方で開示している一方、プラットフォーム別の営業利益は開示していない(本記事では「---(非開示)」と表記する)。
また「HPC(High Performance Computing)」は、AIアクセラレータやサーバCPUだけでなく、PC・タブレット・ゲーム機・ネットワーキング・基地局向けなども含む区分である。したがってHPC売上=AI関連売上ではない点に注意が必要だ。
通期で見ると、FY2025のHPCは構成比58%(FY2024:51%)で、売上は前年比+48%と全社(+31.6%)を大きく上回った。Smartphoneは構成比29%(同35%)で+11%、Automotiveは5%で+34%、IoTは5%で+15%、Othersは2%で+34%、DCEは前年並みだった。地域別(顧客の本社所在地ベース)ではFY2025の北米顧客が75%(FY2024:70%)を占める。
直近四半期の2Q26では、HPCが構成比66%(1Q26:61%、2Q25:60%)、前四半期比+20%となった。全社売上が同+12.0%であったことから、概算ではHPCが全社の純増収額の大部分を説明する。ただしIoT(+4%)、Automotive(+15%)、DCE(+5%)、Others(+5%)も増収しており、HPCが唯一の増収部門というわけではない。Smartphoneは前四半期比▲4%で、会社は当該四半期の減少理由を開示していない。地域別では北米顧客が78%(1Q26:76%)、中国が6%(2Q25:9%)である(いずれも顧客本社所在地ベースの集計であり、最終需要地や輸出先を示すものではない)。
なお、HPC需要の拡大がN3・N2やCoWoSといった個別技術の稼働率をどの程度押し上げたかについて、会社は技術別の稼働率を開示していない。会社が説明しているのは「先端技術への旺盛な需要」と「全体稼働率の上昇」であり、技術別の寄与度は筆者の推論にとどまる。

図1:プラットフォーム別 売上構成比の推移(FY2024→FY2025、および2Q25→1Q26→2Q26)(引用:TSMC IR 各期 経営報告書)
表1:プラットフォーム別 売上明細(FY2025 通期、対前年)
プラットフォーム | FY2025 構成比 | 売上高(概算, NT$億) | 売上 前年比 | FY2024 構成比 | 構成比 前年差 | 営業利益(率) |
|---|---|---|---|---|---|---|
High Performance Computing(HPC) | 58% | 約22,092 | +48% | 51% | +7.0pt | ---(非開示) |
Smartphone | 29% | 約11,046 | +11% | 35% | ▲6.0pt | ---(非開示) |
Internet of Things(IoT) | 5% | 約1,905 | +15% | 6% | ▲1.0pt | ---(非開示) |
Automotive | 5% | 約1,905 | +34% | 5% | ±0.0pt | ---(非開示) |
Digital Consumer Electronics(DCE) | 1% | 約381 | 前年並み | 1% | ±0.0pt | ---(非開示) |
Others | 2% | 約762 | +34% | 2% | ±0.0pt | ---(非開示) |
連結合計 | 100% | 38,090.5 | +31.6% | 100% | — | NT$19,360.9億(50.8%) |
注:構成比と売上前年比は会社開示の確定値。プラットフォーム別売上高(NT$億)は連結売上高NT$38,090.5億に整数%の構成比を乗じた筆者の概算値であり、会社開示値ではない(整数%を用いるため精密な実額とは一致しない)。営業利益はプラットフォーム別に開示されていない。引用:TSMC IR 2025年第4四半期 経営報告書。
表1-2:プラットフォーム別 売上構成(2Q26、四半期開示)
プラットフォーム | 2Q26 構成比 | 前四半期比 | 1Q26 構成比 | 2Q25 構成比 |
|---|---|---|---|---|
HPC | 66% | +20% | 61% | 60% |
Smartphone | 22% | ▲4% | 26% | 27% |
IoT | 5% | +4% | 6% | 5% |
Automotive | 4% | +15% | 4% | 5% |
DCE | 1% | +5% | 1% | 1% |
Others | 2% | +5% | 2% | 2% |
連結合計 | 100% | +12.0% | 100% | 100% |
注:構成比は丸め値。引用:TSMC IR 2026年第2四半期 経営報告書。
業績推移(年次)
過去3期の推移は明確な右肩上がりである。売上高はNT$2兆1,617億(FY2023)→NT$2兆8,943億(FY2024)→NT$3兆8,090億(FY2025)と2年で76.2%増加し、営業利益率は42.6%→45.7%→50.8%と8.2ポイント改善した。粗利率も54.4%→56.1%→59.9%と上昇している。希薄化EPSはNT$32.34→NT$45.25(+39.9%)→NT$66.25(+46.4%)である。
粗利率改善について、会社はFY2025の要因として「稼働率上昇とコスト改善」を挙げ、「不利な為替と海外ファブによる希薄化に一部相殺された」と説明している。会社説明
海外ファブ(米アリゾナ、日本熊本、独ドレスデン)については、会社は今後数年の海外展開に伴う粗利率希薄化を立ち上げ初期で2〜3ポイント、後期には3〜4ポイントと見込んでいる(会社見通し)。なお各拠点は立ち上げ段階が異なり、すべてが同時に同じ影響を与えているわけではない。
キャッシュフローも拡大している。年次営業CFはNT$1兆2,419.7億(FY2023)→NT$1兆8,261.8億(FY2024)→NT$2兆2,749.8億(FY2025)、フリーキャッシュフロー(営業CF−設備投資)はNT$2,921.5億→NT$8,701.7億→NT$1兆25.7億と改善した。設備投資はUS$304.5億(FY2023)→US$409.0億(FY2025)である。
2026年に入ってからの勢いはさらに強い。1H26累計(1Q26+2Q26)は売上高NT$2兆4,044.8億(US$761.0億)、営業利益NT$1兆4,255.7億(営業利益率59.3%)、親会社株主帰属純利益NT$1兆2,790.4億、四半期EPSの単純合計はNT$49.33で、FY2025通期EPS(NT$66.25)の約74.5%に相当する。月次売上(NT$建て公表値)でも2026年7月はNT$4,675.8億(前年同月比+44.7%)、1〜7月累計はNT$2兆8,720.6億(前年同期比+37.0%)である。
四半期ベースの営業CFは2Q26でNT$7,833.6億、1H26累計NT$1兆4,823.3億。設備投資が2Q26だけでNT$4,960.0億(US$157.0億)に達したため、フリーキャッシュフローはNT$2,873.6億と前四半期(NT$3,482.1億)から減少した。

図2:連結売上高の年次推移(FY2023〜FY2025確定+FY2026会社見通し。実績と見通しを区別して表示すること)(引用:TSMC IR 各期決算発表)

図3:営業利益率の年次推移(FY2023〜FY2025)と四半期推移(2Q25〜2Q26)(引用:TSMC IR 各期決算発表)
表2:業績推移(直近3期・通期)
年度(12月期) | 売上高 | 営業利益(利益率) | 純利益(親会社株主帰属) | 希薄化EPS | 年間配当(現金支払ベース) |
|---|---|---|---|---|---|
FY2023 | NT$21,617.4億(US$693.0億) | NT$9,214.7億(42.6%) | NT$8,385.0億 | NT$32.34 | NT$11.25/株 |
FY2024 | NT$28,943.1億(US$900.8億)前年比 +33.9% | NT$13,220.5億(45.7%) | NT$11,732.7億 +39.9% | NT$45.25 +39.9% | NT$14.00/株 |
FY2025 | NT$38,090.5億(US$1,224.2億)前年比 +31.6%/USD +35.9% | NT$19,360.9億(50.8%) | NT$17,178.8億 +46.4% | NT$66.25(+46.4%) | NT$18.00/株(総額NT$4,667.8億、前年比+28.6%) |
注1:売上高・営業利益・純利益・EPSは会社の各期 経営報告書(Quarterly Management Report)の通期欄からの転記。営業利益率は会社公表の小数1桁表記に統一した。純利益は親会社株主に帰属する純利益であり、非支配持分を含む連結純利益とは異なる。USD売上高は会社公表の換算値。注2:TSMCは会社としての非GAAP(調整後)EPSを開示していないため、非GAAP EPSは該当なしとなる。注3:配当は「当該暦年中に実際に支払われた1株当たり現金配当の合計」であり、会社が決算説明会で用いる基準に合わせた。帰属四半期ベース(1Q〜4Q分の合計)ではFY2023 NT$13.00、FY2024 NT$17.00、FY2025 NT$22.00となる。二つの基準は混在させていない。引用:TSMC IR 2023年第4四半期/2025年第4四半期 経営報告書、TSMC IR Dividend History、2Q26決算説明会トランスクリプト。
成長ドライバー:AI・HPC需要とN2の立ち上がり
最大の成長ドライバーはHPCプラットフォームであり、なかでも会社が繰り返し言及するのはAIアクセラレータとデータセンターCPUの需要である(前述のとおりHPC区分にはPC・ゲーム機等も含まれるため、HPC売上全体をAI売上と同一視はできない)。
技術ノード別に見ると、2Q26のウェハ売上構成は2nm(N2)が3%、3nmが30%、5nmが33%、7nmが11%で、7nm以下の先端技術が合計77%を占めた。前四半期はN2が0%、3nmが25%である(N2の0%は公表上の丸め値であり、売上がまったく存在しなかったことを意味するとは限らない)。通期ではFY2025の先端技術比率が74%で、FY2024の69%から上昇している。
会社CFOは3Q26および2026年下期について「N2の急峻な立ち上げが粗利率を3〜4ポイント希薄化する」との見通しを示した(実績ではなく見通し)。これを立ち上げスピードの速さの傍証と読むこともできるが、希薄化幅は歩留り・コスト構造・売上構成にも左右されるため、この読み方は筆者の解釈である。会社が説明している範囲では、棚卸日数が2Q26に80日→87日へ増加した理由が「N2ランプに伴うもの」とされている。
供給能力の増強計画も具体的である。会社は3nmの追加ファブを台湾・アリゾナ・日本の3拠点で建設する計画を進めており、5nm装置の3nm転用も継続している(いずれも計画・施策であり、完成や量産開始を意味しない)。台湾国内では今後数年で13の先端ファブ・先端パッケージングファブを建設する計画だ。さらに2026年7月には米国アリゾナへ追加US$1,000億の投資を発表し、2nm以下のロジックファブと先端パッケージングファブを複数増設する計画を示した(同州の累計投資計画額はUS$2,650億。2025年発表の追加投資とは別枠であり、いずれも計画額で支出済額ではない。完成日程は示されていない)。
次世代のA14は2027年にリスク生産、2028年に量産を予定する。会社の技術目標として、N2比で同一消費電力時に10〜15%の速度向上、または同一速度時に25〜30%の消費電力削減、約20%のチップ密度向上を掲げる。派生ノードのA13・A12は2029年量産予定である(いずれも予定であり実績ではない)。
先端パッケージングでは、CoWoS(Chip on Wafer on Substrate=インターポーザ等を介して複数チップとHBMを高密度実装する技術群)が主力である。CoWoSはAIアクセラレータで広く採用されているが、IntelのEMIB等の別方式も存在するため、すべてのAIアクセラレータに必須というわけではない。会社はレチクル14倍サイズまでのロードマップを公表しているが、これは2028年生産予定であり現在量産中の仕様ではない。ガラス基板など次世代技術も開発中で、CEOは「今日の時点では大半がCoWoS」と述べている(製品化済み、あるいはCoWoSの全面置換を意味するものではない)。
受注残(バックログ)について、本記事で確認した会社開示資料には受注残高の金額開示は見当たらなかった。非開示の理由を会社が説明した記録も確認していない。代替指標として、会社が「顧客および顧客の顧客(主にクラウドサービス事業者)から非常に強いシグナルと前向きな見通しを得ている」と述べていること、および設備投資枠を引き上げたことが挙げられる(ただしこれらは受注確定額や取消不能契約の存在を証明するものではない)。設備投資見通しの推移は、2026年1月時点でUS$520〜560億、4月(1Q26)時点で同レンジの上限寄りの執行、7月(2Q26)にUS$600〜640億へレンジ自体を引き上げ、という経緯である。会社は「今後3年間の設備投資は過去3年間よりもさらに大幅に上回る」と述べたが、具体的な3カ年の金額ガイダンスは示していない。

図4:ウェハ売上に占める技術ノード別構成比(2Q25→1Q26→2Q26、N2の立ち上がり)(引用:TSMC IR 2026年第2四半期 経営報告書)
株主還元と財務
TSMCは四半期配当を採用し、「年次・四半期の両ベースで持続的かつ着実に増加する1株当たり現金配当」を方針として掲げている(方針であり、個別四半期の配当決議を保証するものではない)。実際の支払ベースでは、2025年はNT$18.00/株(総額NT$4,667.8億、前年比+28.6%)で、会社は2026年はNT$24.00/株(前年比+33%)、2027年もさらなる増配を見込むとしている(2026・2027年は見込み)。四半期あたりの決議額は1Q25・2Q25のNT$5.00、3Q25・4Q25のNT$6.00を経て、1Q26・2Q26はNT$7.00へ引き上げられた(2Q26分の支払日は2027年1月7日であり、2026年の支払額には含まれない)。
ADR単位の配当額として会社が公表しているのは1Q26分が約US$1.11、2Q26分が約US$1.08である。会社サイトは概算為替1US$=32.3NT$と注記しているが、この前提で計算するとNT$7.00×5株÷32.3=約US$1.08となり、1Q26分の約US$1.11は再現できない。四半期ごとに異なる換算前提が用いられている可能性があり、いずれも予定額で、確定額は支払時の実勢為替で決まる。
自社株買いについて、TSMCは恒常的な自己株式取得プログラムを実施していないが、実績が皆無というわけではない。2024年6月5日に取締役会が3,249,000株の買付を決議し、従業員制限付株式報酬(RSA)による希薄化を相殺する目的で台湾証券取引所で取得のうえ消却している。2025年および2026年上期については、本記事で確認した資料の範囲で新たな取得枠・実績は見当たらなかった(未使用枠の有無も確認できていない)。なお、第三者集計の「自社株買い利回り −0.01%」は発行済株式数の純増減に基づく指標であり、取得の有無や取得総額を直接示すものではないため、実績の根拠としては用いない。
財務は堅牢である。2Q26末で総資産NT$9兆3,756.5億、株主資本合計NT$6兆4,744.7億(総資産比69.1%。この「株主資本合計」は非支配持分を含む会社開示の区分である)、現金・市場性有価証券NT$3兆5,180.1億に対し有利子負債はNT$1兆316.8億で、ネットキャッシュ(現金・市場性有価証券−有利子負債)はNT$2兆4,863.3億。流動比率2.5倍、有利子負債÷株主資本合計は約0.16倍(会社開示の数値による筆者計算。第三者サイトは0.17倍と表示しており、リース負債等の算入範囲の違いによる可能性がある)。ROEは2Q26で45.9%だが、これは親会社株主帰属の平均資本を用いた四半期年率換算値であり、TTMベースや期末資本ベースのROEとは異なる。
一方で、2026年の設備投資US$600〜640億は営業CFの相当部分を吸収する。1H26の設備投資はUS$268.0億(1Q26 US$111.0億+2Q26 US$157.0億)で、通期計画をレンジどおりに執行する場合、下期はUS$332〜372億の計算になる(実績ではなく計算値)。配当と設備投資の両立が続くかは、フリーキャッシュフローの推移で確認したい。

図5:1株当たり現金配当の推移(支払ベース、2023〜2025年実績+2026年見込み。実績と見込みを区別して表示すること)(引用:TSMC IR Dividend History、2Q26決算説明会トランスクリプト)
通期見通し(FY2026)と次四半期ガイダンス
会社見通し会社は2Q26決算(2026年7月16日)で、2026年通期のUSDベース売上成長率を「前年比40%をやや上回る」へ引き上げた。1Q26時点の「30%超」からの上方修正である。FY2025のUSD売上US$1,224.2億に対して成長率がちょうど40%であればFY2026売上はUS$1,713.9億となる(筆者の機械的計算)。会社の表現は「やや上回る」であるため、この金額は目安の下限にあたり、会社が金額レンジを示したわけではない。
設備投資枠も同時にUS$520〜560億からUS$600〜640億へ引き上げられた。配分は先端プロセスに70〜80%、特殊プロセスに約10%、先端パッケージング・テスト・マスク製造等に10〜20%である(各レンジの上限を同時に合計して配分額を確定できるものではない)。会社は「新たに立ち上がったエージェンティックAI市場を含む構造的需要の強さ」を増額理由に挙げ、装置サプライヤーとの事前調整により「当社の能力拡張計画にボトルネックは想定していない」としている(自社の計画についての見通しであり、業界全体に供給制約がないという意味ではない)。
表3:ガイダンス(2026年7月16日時点)
項目 | 3Q26 ガイダンス | 中間値 | 2Q26 実績(参考) | 前回(1Q26時点)からの修正 |
|---|---|---|---|---|
売上高(USD) | US$446億〜458億 | US$452億 | US$402.0億 | —(3Q26は新規提示) |
粗利率 | 65%〜67% | 66% | 67.7% | — |
営業利益率 | 56%〜58% | 57% | 60.3% | — |
為替 | ガイダンス前提 1US$=32.0NT$ | — | 2Q26 平均実績 31.60(2Q26ガイダンス前提は31.7) | — |
FY2026 売上成長率(USD) | 前年比40%をやや上回る | — | — | 「30%超」から上方修正 |
FY2026 設備投資 | US$600億〜640億 | — | 1H26実績 US$268.0億 | US$520〜560億から引き上げ |
注:為替は「ガイダンス前提」「四半期の平均実績」を区別して記載した(期末為替とも異なる)。3Q26売上ガイダンス中間値US$452億は、3Q25実績US$331.0億に対して+36.6%の水準(会社のガイダンス中間値を用いた筆者試算)。粗利率ガイダンス中間値の前四半期比1.7ポイント低下は、主にN2立ち上げによる3〜4ポイントの希薄化を、先端技術への需要とコスト改善で一部相殺する想定による(会社説明)。引用:SEC Form 6-K(2026年7月16日)、TSMC IR 2026年第2四半期 決算説明会資料。
株価と指標
株価はUS$417.52(NYSE通常取引、2026年8月28日終値、前日比▲2.29%)。52週レンジはUS$225.63〜US$479.00、52週騰落率は+74.48%、50日移動平均US$423.43、200日移動平均US$369.53である(第三者集計の表示値。配当調整の有無・対象営業日の定義は確認していない)。株価が50日線付近、200日線を上回る位置にあるのは事実だが、そこからトレンドの方向を断定するのは筆者のテクニカル判断であり、移動平均の現在値だけで確定できるものではない。
以下の評価指標は、すべて2026年8月28日終値US$417.52・ADR単位(普通株5株)・会社公表値ベースで筆者が算出した。第三者サイトの表示値とは算定基礎が異なるため、両者を併記する。
指標 | 本記事の算出値(ADRベース) | 算出方法 | 第三者集計サイトの表示値 |
|---|---|---|---|
実績PER(TTM) | 約30.1倍 | US$417.52 ÷ TTM ADR単位EPS US$13.86(会社公表のADR単位EPS:3Q25 2.92+4Q25 3.14+1Q26 3.49+2Q26 4.31) | 28.27倍(EPS US$13.44表示。ただし417.52÷13.44=約31.1倍となり同ページ内で整合しない) |
時価総額 | 約US$2.17兆 | 普通株25,932百万株 ÷ 5 × US$417.52 | 約US$1.97兆(台湾上場株ベースの算定と推定されるが未確認) |
PBR | 約10.6倍 | 1株当たり純資産 NT$249.7(株主資本合計NT$6兆4,744.7億÷25,932百万株)×5 ÷ 31.60=US$39.51 に対する株価 | 9.68倍 |
配当利回り | 約0.84% | 直近12カ月にADRへ支払われた配当 US$3.4957(1Q25〜4Q25帰属分、2025年10月〜2026年7月支払)÷ US$417.52 | 0.77%(年間配当US$3.22表示。期間の定義は未明示) |
配当性向 | 約27.2% | FY2025 現金配当支払総額 NT$4,667.8億 ÷ FY2025 親会社株主帰属純利益 NT$1兆7,178.8億 | 23.97% |
予想PER | ---(算出せず) | 会社はEPSガイダンスを開示していないため独自算出しない | 19.30倍(対象年度・EPS基準・換算基準は未明示) |
成長率対比の目安として、第三者集計による市場予想の3年EPS成長率(年率)は約39.7%で、同サイトの予想PER19.30倍を用いればPEG的な倍率は約0.49倍となる。ただしこれは予想PERの対象期間とEPS基準、成長率の年率定義がいずれも明示されていないデータ同士の割り算であり、公表されたPEG指標でも割安さの証明でもない。加えて、(1) 市場予想EPSが下方修正されないこと、(2) AI設備投資サイクルが少なくとも3年続くこと、(3) 台湾海峡リスクに追加のディスカウントが要求されないこと、という3つの前提に依存している。本記事は割安・割高の判断や売買推奨を行わない。
参考として、証券アナリスト19名のコンセンサス目標株価はUS$554.45(現値比+32.8%)だが、これは市場予想であり会社見解ではない。
取得時点:2026年8月31日(株価は2026年8月28日終値)。引用:StockAnalysis / S&P Global Market Intelligence(株価・52週統計・第三者表示値)、TSMC IR 各期 経営報告書(EPS・純資産・配当)。株価および各種指標は取得時点の値であり、以後変動する。
今後の注目点とリスク
注目点
- FY2026通期「+40%超」の達成度(USDベースで確認する):通期+40%はUS$1,713.9億に相当する。1H26実績US$761.0億に3Q26ガイダンス中間値US$452.0億を加えるとUS$1,213.0億となり、残る4Q26に必要な売上はUS$500.9億。これは4Q25実績US$337.3億に対し+48.5%、3Q26中間値比では+10.8%の水準である(筆者試算)。なお月次売上の「1〜7月+37.0%」はNT$建てであり、USD建ての通期目標とは直接比較できない。
- N2の立ち上げカーブと粗利率:3Q26は粗利率66%(中間値)と2Q26比1.7ポイント低下の見通し。N2希薄化3〜4ポイントをどこまで需要とコスト改善で吸収できるか。
- 海外ファブの希薄化度合い:会社見通しは初期2〜3ポイント、後期3〜4ポイント。
- 設備投資と配当の両立:US$600〜640億の投資枠を執行しながら、2027年も増配を継続できるか。
- ファウンドリシェアの推移:TrendForceの四半期集計で72.3%(1Q26)からさらに上昇するか、Samsung・Intelの先端ノード歩留り改善で頭打ちになるか。
- 次回決算:第三者サイトは3Q26決算を2026年10月15日と推定日で掲載しているが、会社の財務カレンダーでは本記事執筆時点で正式日程を確認できなかった。
リスク
- 地政学:主要な生産拠点が台湾に集中していることは会社開示で確認できる事実である。これを同社の「最大の」リスクと位置づけるのは筆者の評価であり、リスクの順位づけ自体は客観的に確定できるものではない。
- 規制:米国は半導体の輸出・再輸出等に許可制度を設けており、装置については輸出元国の許可も関係する。具体的な現行規制・関税の内容は変動するため、その都度の確認が必要である。なお中国向け売上構成比は2Q25の9%から2Q26は6%へ低下しているが、会社はその原因を規制と結び付けて説明しておらず、本記事も因果関係は断定しない(構成比の低下は絶対額の減少を意味しない)。
- 粗利率の希薄化:N2立ち上げ(3〜4ポイント)と海外ファブ(2〜3ポイント→3〜4ポイント)の希薄化要因が下期以降に重なる(いずれも会社見通し)。
- 需要の集中:2Q26のHPC比率66%、北米顧客比率78%はいずれも高い。ただしHPCには非AI用途が、北米顧客には消費者向け企業が含まれるため、これらの数値がそのままAI設備投資サイクルへの依存度を示すわけではない。依存度が高いという評価は筆者の分析である。
- コンシューマ・価格感応セグメントの弱さ:会社CEOは「部品価格の上昇とマクロの不確実性により、コンシューマおよび価格感応度の高い最終市場が圧迫されている」と述べ、事業計画に慎重姿勢を示した(会社の需要認識であり、市場全体について独立に検証された事実ではない)。他条件が一定であればメモリを含む部品価格の上昇はセット製品のコストを押し上げるが、実際の影響は調達契約・数量・構成に左右され、TSMCへの影響額は示されていない。
- 為替:売上は主にUSD建て、コストには相当程度NT$建てが含まれるため、NT$高は収益性に不利に働く(会社は不利な為替を粗利率の相殺要因として挙げている)。設備投資の外貨支出や為替ヘッジの影響は別途考慮を要する。会社CFOも「為替はコントロールできない要因」と述べている。
- 競争:Samsungが受託製造価格を引き上げる方針であるとの報道(Barron’s、2026年8月20日)があり、競争環境の変化要因として指摘されている(報道ベースであり、会社が確認した情報ではない)。
- 設備投資の先行性:需要が想定を下回った場合、稼働率低下と固定費負担が利益率を圧迫しうる。なお減価償却は原則として設備が使用可能な状態になってから発生する。
- インフラ・人材:台湾国内の電力・水・人材の供給制約は潜在的なリスクとして会社開示でも言及されている。ただし現時点の拡張計画が実際にこれらの制約を受けているという事実を本記事で確認したわけではない。
著者見解
TSMCで筆者が最も重視しているのは、シェアでも成長率でもなく「営業利益率60.3%を、この投資水準を続けながら維持できるか」という一点だ。ファウンドリは装置産業であり、一般に多額の固定資産を必要とする。その業態で営業利益率60%が出ている背景には、先端ノードの価格決定力に加え、稼働率の高さ、コスト効率化、為替など複数の要因があると考えている(会社は稼働率とコスト改善を挙げており、価格要因を単独の説明として示してはいない)。いずれにせよ、この利益率を支える条件のどれかが崩れれば、巨額の減価償却が相対的な重しへ転じやすい構造ではある。
その意味で、今回の設備投資増額(US$520〜560億→US$600〜640億)とアリゾナ追加US$1,000億は、筆者にとっては強気材料であると同時に「戻れない一手」でもある。会社が「今後3年の投資は過去3年をさらに大幅に上回る」と述べた以上、2028年以降の減価償却は現在より高い水準になる公算が大きいと筆者は見ている。ただし当該年度の償却額は稼働開始時期・資産構成・耐用年数に左右され、会社の投資見通しだけで確定するものではない。AI需要が2029年以降も現在のペースで続くならこの判断は正しく、そうでなければ利益率は構造的に低下する。筆者はこの賭けの勝率を体感で7割程度と見ているが、これは統計的に算出した確率ではなく主観的な確信度である。クラウド各社の投資意欲は本物だが、投資回収の遅れが2028年前後に一度は表面化する可能性が低くないと考えている。
短期的には、下期の粗利率が最大の焦点になると見ている。3Q26ガイダンス中間値66%は、N2希薄化3〜4ポイントを織り込んだうえでの数字だ。ここを上振れで着地させれば「N2立ち上げでもマージンは崩れない」という受け止めが広がり、下振れすれば「先端ノード移行のたびに利益率が凹む」というストーリーに傾きうる――というのは筆者の予想である。通期売上ガイダンスについては、USDベースで4Q26にUS$500.9億(4Q25比+48.5%、3Q26中間値比+10.8%)が必要という計算になり、これは決して自動的に達成される水準ではない。NT$建て月次の伸び(1〜7月+37.0%)を根拠に「余裕がある」と判断するのは通貨基準を取り違えた見方であり、USDベースでの四半期進捗を追う必要がある。
バリュエーションについて。予想PER19.3倍(第三者表示)という数字は、市場予想の成長率だけを見れば説明のつく水準だ。ただし筆者は、台湾集中リスクに対する適正なディスカウント幅を客観的に算定するのが難しいという点を重く見ている。国別リスクを割引率やキャッシュフローに反映する手法は実務上存在するが、前提の置き方で結果が大きく振れるため、推定の不確実性が極めて大きい。したがって筆者は、TSMCを「バリュエーションだけで判断する銘柄」ではなく「ポジションサイズで管理する銘柄」と位置づけている。個別要因ではなく、ポートフォリオ全体の台湾エクスポージャーとして許容できる比率を先に決め、その範囲内で保有する――というのが筆者のスタンスである。
総じて、シェア・技術リード・収益性のいずれも同業他社より優位にあり、AI設備投資サイクルの継続を前提とすれば業績の視界は良好だと考えている。一方で、リスクの重心が「業績リスク」より「地政学リスク」に寄っているように筆者には見え、通常の企業分析の枠外に判断材料が置かれている。この非対称性をどう扱うかが、この銘柄に向き合ううえでの本質だと考えている。以上は筆者の方針・評価であり、客観的に確定できる事実ではない。
引用
[A]会社発行の一次資料
- SEC EDGAR|Form 6-K「TSMC Reports Second Quarter EPS of NT$27.25」(2026年7月16日)…2Q26売上・利益率・EPS、3Q26ガイダンス
- TSMC IR|2026年第2四半期 Quarterly Management Report(PDF)…2Q26のプラットフォーム別・技術別・地域別構成、B/S、CF、設備投資
- TSMC IR|2026 Second Quarter Earnings Conference Presentation(PDF)…ROE、FCF、3Q26ガイダンス、FY2026見通し
- TSMC IR|Q2 2026 Earnings Call Transcript(PDF)…設備投資枠・配分、アリゾナ追加投資、A14/A13/A12、配当方針、CEO/CFO発言
- TSMC IR|2025年第4四半期 Quarterly Management Report(PDF)…FY2025・FY2024の通期売上/営業利益/純利益/希薄化EPS(NT$66.25)/年次CF/通期プラットフォーム別内訳
- SEC EDGAR|Form 6-K「TSMC Reports Fourth Quarter EPS of NT$19.50」(2026年1月15日)…4Q25実績、1Q26ガイダンス、2026年設備投資枠(当初US$520〜560億)
- TSMC IR|2023年第4四半期 Quarterly Management Report(PDF)…FY2023の通期売上NT$2兆1,617.4億/営業利益NT$9,214.7億(42.6%)/親会社株主帰属純利益NT$8,385.0億/希薄化EPS NT$32.34/年次CF
- TSMC Press Center|July 2026 Revenue Report(2026年8月10日)…月次・累計売上(NT$建て)
- TSMC IR|Dividend History…四半期別配当決議額、支払日、ADR概算額
- TSMC|2024 Annual Report(PDF)…2024年の自己株式3,249,000株の取得・消却
- TSMC IR|Financial Calendar…決算・月次売上の公表日程
[B]第三者による調査・市場データ
- TrendForce|1Q26 世界ファウンドリ売上ランキング(2026年6月12日)
- StockAnalysis|TSM Statistics & Valuation(データ提供:S&P Global Market Intelligence、2026年8月31日取得)
- Barron’s|How Intel and TSMC Could Benefit From Samsung Hiking Chipmaking Prices(2026年8月20日)
注:出典の発表日と本記事の取得日は別である。発表日は各資料に記載のとおり、本記事の情報取得日は2026年8月31日。
※本記事は2026年08月31日時点の公開情報に基づく客観的な整理であり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。金額は特記なき限り米ドル(US$)または新台湾ドル(NT$)で表記し、TSMCの会計年度は暦年(12月31日期末)です。会社の財務数値はTSMCがTIFRS(台湾IFRS)連結ベースで公表した決算資料からの転記であり、Form 20-Fに掲載されるIFRS数値や第三者が算出する調整値と自動的に同一とは限りません。株価指標は本記事で独自に算出した値(ADR単位・会社公表値ベース)と第三者集計サイトの表示値を併記しており、両者は算定基礎が異なります。確定実績・会社ガイダンス・第三者集計値・報道ベースの情報・筆者の推論はそれぞれ本文中で区別していますが、ガイダンスや市場予想は将来の実績を保証するものではありません。株価等の指標は取得時点の値であり、以後変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。