未上場のAI大手2社の業績が、2日続けて表に出た。8月13日、米OpenAIの年換算売上高が400億ドルを超えたとBloombergが関係者の話として報じ、翌14日には同じくBloombergが、Anthropicの2026年4-6月期の暫定売上高が115億ドルを超え、調整後営業利益が初めてプラスになったと伝えた。

どちらも上場企業の決算発表ではなく、監査を経ていない非公式な数値である点は最初に押さえておきたい。OpenAI側は匿名の関係者情報に基づくラン・レート、Anthropic側は投資候補者向け資料に基づく暫定値で、数字の性格も異なる。

それでもこの2つが注目されるのは、両社ともすでにSECへS-1(新規上場申請書類)を秘密提出済みだからだ。次に出てくる公式な数字は、公開版のS-1になる可能性が高い。

■この記事の要点

  • OpenAI:年換算売上高が400億ドル超。2025年の200億ドル超からおおむね倍の水準。ただしこれは直近ペースの年換算値であり、「2026年に400億ドル売った」という意味ではない。
  • Anthropic:4-6月期の暫定売上高が115億ドル超、前年同期比で少なくとも約14.6倍。同四半期は調整後営業利益がプラスになったと報じられた。ただし株式報酬を除いた指標で、GAAPベースの黒字とは限らない。
  • 2件は別々のニュースであり、並べて優劣を論じる材料ではない。測る期間も売上の数え方も違い、どちらも「超」が付いた下限値だからだ。後半で理由を4点に分けて整理する。

■それぞれの報道内容について

まず8月13日(米東部時間)、Bloombergが関係者の話として、OpenAIの年換算売上高が400億ドルを超えたと報じた。日本語版は翌14日朝に掲載されている。翌14日には同じくBloombergが、Anthropicの2026年4-6月期の暫定売上高が115億ドル超だったと伝えた。2件とも一次ソースはBloombergの報道であり、内容は次節以降で順に確認する。

会社

報じられた数値

数値の性格

報道日

OpenAI

年換算売上高 400億ドル超

直近月のペースを年換算したラン・レート(非公式・関係者情報)

8月13日

Anthropic

2026年4-6月期 売上高 115億ドル超

3カ月の実績(暫定値・投資候補者向け資料)

8月14日

■ニュース①|OpenAI、年換算売上が400億ドルを突破

引用:Bloombergの報道によると、OpenAIの売上高は直近数カ月で加速しており、AIコーディング製品の成長、サブスクリプション、立ち上がったばかりの広告事業が寄与したとされる。同報道は、7月の年換算売上ペースが前月比20%超で伸びたとの社内向け説明も伝えている。なお寄与額・寄与率は開示されておらず、いずれも会社の財務資料で確認されたものではない。

ここで最初につまずきやすいのが「年換算」という言葉だ。400億ドルという数字は、次のいずれも意味していない。

  • 2026年にすでに400億ドルを売り上げた
  • 2026年通期の売上高予想が400億ドルである
  • 年間契約価値(ACV)が400億ドルある

正しくは「直近の月商ペースが続くと仮定した場合の年換算値」、いわゆるラン・レートだ。報道値を12で割れば月商33.3億ドル超になる。未上場のソフトウェア企業がよく使う指標で、成長が速いほど実際の年間売上より大きく出る。

前掲のBloomberg報道は、サラ・フライアCFOがかつて2025年を年換算200億ドル超と述べていたとも伝えている。今回の400億ドル超はそこからおおむね倍の水準にあたるが、双方とも「超」という下限値であり、正確な増加率は計算できない。

引用:OpenAIの最高収益責任者(CRO)はBloombergのインタビューで、企業向け事業が売上高の40%超を占め、2026年末にはコンシューマー向け事業と同水準になる見通しだと述べている。事業構成の分散は進んでいる。ただし、これは利益の話ではない。

引用:株主向け資料を確認したとするThe Informationの報道では、OpenAIの2026年1-3月期は売上高57億ドルに対し、営業損失が93億ドルに達した。同期のキャッシュ消費は37億ドルで、売上高の約65%にあたる。

6月には2025年の監査済みとされる財務資料が流出し、売上高130.7億ドルに対して営業損失209.2億ドルだったことも報じられた。いずれもEDGAR上の一次開示ではない。

なおキャッシュバーンは期間中の純現金流出で、営業損失とは別の指標だ。混同すると損失額を二重に数えることになる。

筆者注:ラン・レートは「今の勢い」を示す指標であって、通期の着地でも収益力でもない。S-1では、監査済みのGAAP財務諸表とキャッシュフロー計算書の開示が求められる。

■ニュース②|Anthropic、4-6月期115億ドル超で初の調整後営業黒字

引用:投資候補者向け資料を確認したとするBloombergの報道によると、Anthropicの2026年4-6月期の暫定売上高は115億ドル超で、前年同期の7.87億ドル、1-3月期の47.3億ドルから大きく伸びた。同四半期は調整後営業利益がプラスになったとされる。数字は暫定で修正の可能性があり、同社はコメントを拒否している。

こちらは実績値だ。115億ドル超は4-6月期の3カ月間に実際に計上した売上で、月商に均せば38.3億ドル超になる。前四半期比で少なくとも約2.43倍、前年同期比では少なくとも約14.6倍。ただし一次開示や監査済み財務諸表は公表されていない。

引用:CNBCが5月に報じた社内予測では、4-6月期の売上高を109億ドル、調整後営業利益を5.59億ドル(利益率約5.1%)と見込んでいた。実際の暫定売上高はこの5月時点の社内予測を少なくとも6億ドル上回ったことになる。注目すべきは黒字化のほうだが、内容には条件が付く。

この「調整後営業利益」はモデル訓練費を含む一方、株式報酬(SBC)を除いていると報じられている。ただしAnthropicは調整後指標の正式な定義もGAAPへの調整表も公開していないため、除外項目の全体像は確認できない。上場企業が開示するGAAP営業利益とは別物であり、GAAPベースでも黒字とは限らない点は押さえておきたい。

引用:Anthropicが5月28日に公表したシリーズHでは、650億ドルを調達し、ポストマネー評価額は9,650億ドルとなった。同社は同じ発表のなかで、ラン・レート売上高が同月に470億ドルを超えたとしている。資本市場での評価は先行している。

■筆者の独自分析|2つの数字を横に並べてはいけない4つの理由

SNS上では2件を並べて「AnthropicがOpenAIを抜いた」とする投稿も見られた。だが、この2つは同じ物差しで測られていない。筆者が相違点を分解したところ、4点あり、いずれも公開情報では埋められないという結果になった。

相違点

OpenAI「400億ドル超」

Anthropic「115億ドル超」

差の向かう方向

公開情報で定量化できるか

① 測定の性格

直近月のペースを年換算したラン・レート

3カ月の実績(暫定)

高成長下では、四半期平均の年換算は期末ペースを下回りやすい

不可(両社とも月次売上は非開示)

② 数値の精度

「超」が付く下限値

「超」が付く下限値

実額の上限が示されておらず、順位を決められない

不可

③ 売上の計上基準

クラウド経由分は純額との報道

クラウド経由分は総額との報道

Anthropic側を押し上げる方向に働く

不可(チャネル別売上・パートナー支払額が非開示)

④ 基準日

8月上旬時点のペース

4-6月期の実績

約2〜3カ月のずれ

不可

とくに②が効く。両方とも「超」が付く下限値である以上、OpenAIの実額が460億ドル(115億ドル×4)を上回っている可能性を排除できない。そもそも「どちらが大きいか」を決められる形の数字ではない

③の売上計上基準も見過ごせない。

引用:Semaforが関係者情報として報じた範囲では、顧客がクラウドパートナー経由で1ドル分のトークンを購入した場合、OpenAIは自社の取り分である20セントを売上に計上する一方、Anthropicは1ドル全額を売上に計上する。ただしこれは一例で、同記事自身が提携先ごとに取り分は異なると明記している。同報道は、この処理の違いが年換算で最大80億ドルの差になるとも伝えているが、これは4月10日時点でOpenAIを総額計上に切り替えた場合の上乗せ推計である。

引用:流出したOpenAIの社内メモでは、同社CROがAnthropicの当時300億ドルとされたラン・レートは総額計上により約80億ドル過大だと社内向けに主張したとされる。一方、Forbesの報道によれば、Anthropicは自社が取引の本人(principal)であり、クラウド事業者は販売チャネルにすぎないため総額計上が正しいとの立場をとっている。両社の主張は正面から対立しているが、いずれも独立検証された財務事実ではない。

一般論として、総額(グロス)表示と純額(ネット)表示のどちらもあり得る。米国会計基準のASC 606では、企業が顧客への移転前に当該財・サービスを支配しているかを契約単位で判断し、本人なら総額、代理人なら純額となる。ただし契約条件が非公開である以上、両社の具体的な処理がともに適正だと断定することはできない。現時点で不正会計を示す公的情報はなく、主な論点は比較可能性と本人・代理人判断にある。

なお、この80億ドルという数字を現在の売上に足し引きしたくなるが、筆者はこれを採らない。同数字は4月10日時点における「最大」の推計であり、売上規模もチャネル構成も変わった8月の数値に固定額や固定比率で適用する根拠がないからだ。OpenAI側の社内メモの主張も同様で、当時300億ドルとされたラン・レートに対する自社見解にすぎない。

■今後の日程と、S-1で確認したい5項目

まず上場時期について。OpenAIは自社でS-1の秘密提出を公表した際、時期は決めておらず時間がかかる可能性があるとしている。Anthropicも6月1日に秘密提出を公表したが、株数・価格は未定で時期は市場環境次第としている。

引用:ニューヨーク・タイムズの報道を伝えたForbesの記事によれば、OpenAIは1兆ドルを下回る評価額で年内に上場するか、1兆ドルを狙って2027年まで待つかを検討しているとされ、6月に上場したスペースX(SPCX)の上場後の値動きが背景の一つとして挙げられている。会社が公式に上場日程を設定した事実はない。

日程が固まっている関連材料は以下のとおり。

  • 8月26日:エヌビディア(NVDA)の2027年度第2四半期決算。会社ガイダンスは売上高910億ドル±2%で、中国向けデータセンター計算売上を見込まない前提が置かれている。AIインフラ投資の実勢を測る重要な材料の一つになる。日程は同社のIRイベントページで確認できる。
  • 9月15〜16日:FOMC。四半期に一度の経済見通し(SEP)とドットプロットが公表される。日程はFRBの会合カレンダーに掲載されている。
  • 時期未定:両社のS-1公開版。EDGARで閲覧可能になれば、規制開示として詳細を照合できる可能性が高い。ただし特定日のラン・レートや今回の115億ドルがそのまま記載される保証はない。
  • 時期未定:Anthropicの4-6月期確定値。今回の115億ドル超は暫定値であり、未上場企業に四半期の確定値を公表する義務はない。公表される場合はS-1に含まれる形が想定される。

公開版S-1が出たとき、筆者が真っ先に開く5項目を挙げておく。今回の2件の報道を検証するには、この5つが揃う必要がある。

確認したい情報

現状

確認できる場所

チャネル別売上(直販/クラウド経由)の内訳

両社とも非開示

公開版S-1の収益認識注記・セグメント情報

本人・代理人判断の根拠と契約条件

両社とも非開示

同上(重要な会計方針の記載)

同一期間(例:4-6月期)の売上実額

OpenAIは非開示

公開版S-1の期中財務情報

株式報酬を含むGAAP営業損益

両社とも公式には非開示

公開版S-1の監査済み財務諸表

調整後指標の定義とGAAPへの調整表

Anthropicは非開示

公開版S-1のNon-GAAP調整表

■著者見解

今回の2件を通して筆者が最も確度が高いと考えるのは、順位ではなく成長率そのものだ。Anthropicの前年同期比で少なくとも約14.6倍、OpenAIの7月単月で前月比20%超という数字は、複数の報道と会社発表が一貫して急成長を示している点で情報量が多い。

この規模とこの速度の企業が2社並存する状況は、筆者の知る限り前例が思い当たらない(比較対象の定義次第で評価は変わるため、あくまで所感である)。企業向けAI支出がまだシェア争いではなく市場そのものの拡大局面にある可能性を示す一材料と見ているが、顧客の重複、価格改定、総額計上の影響などを排除できたわけではない。

一方でリスクも明確だ。OpenAIは1-3月期に売上高の約65%に相当するキャッシュを消費しており、Anthropicの黒字も株式報酬を除いた調整後の数字にとどまる。収益性の実像は、どちらもまだ検証されていない。加えてスペースXが上場後に高値から水準を切り下げたことが示すとおり、上場市場の受け止めは非公開市場の評価額ほど寛容とは限らない。

筆者が投資判断を下すなら、確認するのは前掲の5項目のうち次の3点になる。第一に、公開版S-1におけるクラウド経由売上の総額・純額の扱いと本人・代理人判断の根拠。第二に、株式報酬を含めたGAAP営業損益とフリーキャッシュフロー。第三に、クラウド事業者・データセンターへの複数年の支払いコミットメント額だ。この3つが開示された時点が、両社を初めて他の上場ハイテク企業と同じ物差しで測れる瞬間になる。

出典

※本記事は2026年8月17日時点で公開されている情報をもとに整理したものであり、特定の銘柄や商品の売買を推奨するものではありません。記載した売上高・評価額・株価・為替は取得時点の数値で、いずれも変動します。両社とも未上場企業であり、本文中の数値には報道ベースの未確認値・下限値・暫定値、および筆者の見解が含まれます。会計年度や会計基準、売上の計上方法の違いにより、企業間で単純比較できない項目がある点にもご留意ください。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。