メモリ株だけを集めた米国のETF「Roundhill Memory ETF(ティッカー:DRAM)」は、4月2日の設定から7月上旬までに2倍超へ急騰した後、上場来高値81.34ドル(ザラ場ベースの可能性あり)から7月16日終値52.71ドルまで約35%下落した。組入銘柄のマイクロンは、7月15日に8.0%安(904.28ドル)、16日も5.7%安(終値853.20ドル)と連日で売られ、6月の終値高値からは約30%下落──それでも年初来ではなお約+199%の水準にある。年初来約+150%まで買われていたサムスン電子は上昇分の相当部分を吐き出し、SK hynixはHBM4出荷遅延懸念が報じられるなか7月13日に15.37%安と過去最大の日次下落を記録した。東京ではキオクシアHDが17日に一時ストップ安となり、終値52,390円(15.6%安)は6月22日の上場来高値112,700円からの半値割れ・時価総額30兆円割れの水準だ。主要メモリ株はそろって高値から20%超下げ、いわゆる弱気相場(ベアマーケット)入りである。

この急落は、一つの悪材料で起きたものではない。複数の要因が、7月上旬からのわずか10日ほどの間にほぼ同時に重なったことで、売りが売りを呼ぶ展開になった。7月7日にサムスン電子が営業利益前年比約19倍(89.4兆ウォン)という過去最高の暫定決算を発表したにもかかわらず株価は下落し、7月13日にはKOSPIが8.95%安(終値6,806.93)となって年内7回目のサーキットブレーカーが発動。15日に6.24%高と急反発したかと思えば、16日には日経平均が1,915.97円安、KOSPIも6.37%安と下げが再燃。17日も東京は日経平均2,939円安(4.4%安、終値63,896円)と大幅続落しており、韓国市場が制憲節で休場のなか、下げの主導権は米国・東京市場に移っている。本稿ではまず何が起きたかを時系列で整理し、確認していきます。

■この記事の要点

  • DRAM価格の前四半期比上昇率は、1〜3月期の60%台半ば→4〜6月期44%→7〜9月期予想13〜18%と急減速(Citi・TrendForce推計)。──価格は上がり続けているのに株が売られたのは、市場が「水準」ではなく「伸び率」を取引しているからだ、というのが筆者の見立てだ。
  • 韓国で5月末に上場したサムスン・SK hynix個別株の2倍レバレッジETFの残高が約14兆ウォン(約91億ドル)まで膨張し(保有者の約92%が個人)、その逆回転が下げを増幅したとの見方が広がる。最大のファンドは上場来約45%安となり、韓国当局は7月16日に新規上場を一時停止した。──下げの「深さ」の相当部分はこの需給要因と筆者はみるが、韓国休場の17日にも東京が4.4%安となった事実は反証として後段で検証する。
  • 買い手側からCoreWeaveのメモリ価格下落ヘッジ検討とMetaの余剰AI計算資源の外販構想、供給側からCXMTの約85億ドル調達のIPOと、メモリ需給の「潮目」を示唆する材料が同じ週に集中した。──個々は小さくても、方向が全部同じだったことが効いた。

■何が起きたのか

まず時系列で確認する。メモリ株に関わる出来事だけで、この2週間は異例の密度だった。

日付

出来事

メモリ株への含意

6月24日

マイクロンが好決算。次四半期売上見通し500億ドル(LSEG予想約436億ドル超え)。長期供給契約(SCA)16件を開示──うち14件の最低価格ベース累計売上は約1,000億ドル、預託金等の財務コミットメントは全SCAで計220億ドル見込み

需要の強さを確認、一時的に相場は反発

7月7日

サムスンが暫定決算で営業利益89.4兆ウォン(前年比約19倍)。ただしLSEG予想(87.3兆ウォン)を小幅に上回った程度で、株価は下落。SOXは約4.65%安

市場では「最高益でも材料出尽くし」と受け止められた(市場解釈)

7月10日

SK hynixがNasdaqにADR上場、265億ドル調達(外国企業による米国史上最大の株式売り出し)。初日は約13%高。同時期にHBM4増産を遅らせDDR5生産を優先する方針と報じられる

上場は成功。増産計画修正の報道は「需要の質」への疑問材料と受け止められた

7月13日

KOSPIが8.95%安(終値6,806.93)、年内7回目のサーキットブレーカー。サムスン10.70%安、SK hynix15.37%安。東京でも前場時点でキオクシア・アドバンテストが日経平均を約272円押し下げ

レバレッジETFの投げ売りが需給悪化を増幅したとの見方(分析は後段)

7月14日

ReutersがCoreWeaveのメモリ価格下落ヘッジ検討を独占報道。中国CXMTがIPO価格を決定(評価額852億ドル)。ソウルは強制決済売りが交錯し乱高下(KED Global)

買い手のヘッジ+供給側の資金調達が同日に

7月15日

ASMLが通期見通しを年内2度目の上方修正。半導体株が反発──KOSPIは6.24%高、SK hynix8.83%高、サムスン6.27%高

下げの合間の反発。東京も半導体中心に大幅続伸

7月16日

TSMCが純利益77.4%増の最高益と同時に、2026年設備投資を600億〜640億ドル(従来520億〜560億ドル)へ増額。CXMTの公募申込開始。韓国当局が個別株レバレッジETPの新規上場を一時停止

売り再燃。KOSPI6.37%安(売りサイドカー=プログラム売買の一時停止が発動、年内37回目)、サムスン8.77%安、SK hynix11.53%安、日経平均1,915.97円安。米国時間15〜16日にはSMHが4%超安、WD・SanDiskが8%前後安

7月17日

韓国市場は制憲節の祝日で休場。東京は日経平均が2,939円安(4.4%安、終値63,896円)と大幅続落。キオクシアは一時ストップ安、終値52,390円(15.6%安)で6月22日高値112,700円の半値割れ・時価総額30兆円割れ

韓国休場でも売りは止まらず。下げの増幅要因が韓国レバレッジETFだけでないことを示唆

引用:Yahoo Finance「Micron, Samsung, SK Hynix just dragged memory stocks into a bear market」The Motley Fool「This New Memory ETF Has Already Doubled」The Motley Fool「Samsung Stock Fell Despite a 19x Profit Jump」KED Global「Korean stocks swing wildly」財経新聞(7月13日)

■サムスン急落の一因:メモリ価格は上昇継続も、伸び率鈍化が株安の引き金に

今回の売りの震源を一つ挙げるなら、サムスンの決算そのものではなく、決算とともに市場に浸透した価格モメンタムの減速だ。DRAM・NANDの平均販売価格(ASP)の前四半期比上昇率は、次のように推移している。

四半期

DRAM ASP(前四半期比)

NAND ASP(前四半期比)

2026年1〜3月期

+60%台半ば(SK hynixのASP実績)

+70%台半ば(SK hynixのASP実績)

2026年4〜6月期

+44%(Citi推計)

+53%(Citi推計)

2026年7〜9月期(予想)

+13〜18%(TrendForce予想)

+10〜15%(TrendForce予想)

価格は依然としてどの四半期も「上昇」している。しかし上昇率は明確に切り下がっており、市場はこのカーブの先に「横ばい→反落」を描き始めた。メモリは歴史的に典型的なシクリカル(景気循環)銘柄として扱われ、株価は市況の天井より数四半期早くピークを付ける傾向がある。営業利益19倍という数字の絶対水準ではなく、「次の四半期はこれより減速する」という変化率が売り材料になったのは、この文脈で理解できる。

もう一つ見逃せないのが、高すぎるメモリ価格が自らの需要を毀損し始めていることだ。DRAM価格は2025年初から約2倍となり、IDCは2026年の世界スマホ出荷を前年比13.9%減の10.9億台(史上最大の減少率)へ下方修正した。主因はAIサーバー向けHBM優先によるメモリ不足と価格高騰──いわゆる「RAMageddon」──であり、サブ100ドル帯のスマホは構造的に採算割れに陥っている。メーカーの今期利益には追い風でも、PC・スマホという伝統的な出荷先を痛めつけている以上、AI以外の需要基盤は静かに細っている。

引用:The Motley Fool(Citi・TrendForce推計の引用元)IDC「Worldwide Smartphone Market to Decline 13.9% in 2026」(公式ブログ)

■買い手側の2つのシグナル──CoreWeaveのヘッジとMetaの外販

価格の減速見通しを裏付けるように、メモリの「大口の買い手」側から2つの示唆的な動きが出た。

一つ目はCoreWeaveだ。Reutersは7月14日、同社がメモリ・ストレージ価格の下落に備えてプットオプション等のデリバティブ活用を検討中と報じた。同社はマイクロンやSanDiskと価格フロア付きの長期契約を結んでおり、スポット価格が契約価格を下回った場合に割高な購入を強いられるリスクをヘッジする狙いとされる。注意すべきは、これが単一の匿名筋による早期段階の報道で、実行は確認されていないことだ。ただ、メモリを最も大量に買う側の企業が「値下がりに備える」検討を始めたという事実は、市場には「買い手はピークアウトを見ている」というシグナルとして伝わった。

二つ目はMetaだ。Bloombergは7月1日、Metaが「Meta Compute」という組織の下で、余剰AI計算資源(GPUラック等)とAIモデルへのアクセスを外部顧客に販売するクラウド事業を計画中と報じた。Metaの2026年AIインフラ投資は約1,250億〜1,450億ドル(前年の約720億ドルから倍増ペース)で、自社製品の需要を上回る規模になりつつある。Meta株自体はこの報道で上昇した──外販は投資回収の道筋になるからだ──が、半導体・メモリ株にとっては意味が逆になる。「余剰」が存在するなら、ハイパースケーラーのGPU・HBM購入は今の角度では続かないかもしれない。買い手の在庫が需要に転じる分、新規の発注は減り得る。

引用:Reuters「CoreWeave explores Wall Street playbook to hedge memory-chip price risk」Bloomberg「Meta Is Building a Cloud Business to Sell Excess AI Compute」Yahoo Finance同報

■供給側の変化──CXMT上場とSK hynixの増産シフト

需要側が防衛的になる一方で、供給側は拡大の資金を集めている。象徴が中国CXMT(長鑫存儲技術)の上場だ。世界4位のDRAMメーカー(世界シェア約8%)である同社は、上海STAR市場でのIPO価格を1株8.66元に決定し、評価額約852億ドル、調達額約85億ドル(オーバーアロットメント行使で最大98億ドル)と、中国の半導体企業として過去最大のA株上場になる。公募申込は7月16日に始まり、7月24〜27日頃の取引開始が見込まれる。調達資金は増産投資に向かう公算が大きく、サムスン・SK hynix・マイクロンの寡占が支えてきた価格決定力を中期的に脅かす存在として意識された。実際、IPO価格決定が伝わった前後の7月14日から16日にかけて、マイクロンは983.12ドルから853.20ドルへ約13%下落しており、米国市場はこの上場をメモリ株の直接の売り材料として扱っている。上場のタイミングが「メモリ市況の最高潮」であること自体、供給側が今を資金調達の好機とみている証左でもある。

SK hynixのNasdaq上場(7月10日、265億ドル調達)も同じ文脈で読める。初日13%高と需要は旺盛だったが、調達資金は能力増強に回る。さらに同社がHBM4の増産を遅らせ、より採算の良いDDR5の生産を優先する方針と報じられたことは、投資家に「AI向けHBMの需要の伸びが、社内の期待に対してすら鈍り始めたのではないか」という解釈を許した。マイクロンを含めた各社の新設能力が2028年初に揃ってフル稼働へ向かうスケジュールと合わせると、2027年以降のどこかで需給が緩む絵は描きやすくなっている。16日には、TSMCが設備投資計画を600億〜640億ドルへ引き上げた直後に装置株・メモリ株が売られる場面もあった。

引用:SCMP「China memory giant CXMT valued at US$85 billion」Bloomberg「Chip Giant CXMT Seeks to Raise $9.8 Billion」Bloomberg「SK Hynix ADR Rises After $26.5 Billion US Listing」

■韓国レバレッジETFが下げを「増幅装置」に変えた

ここまでの材料はいずれも「方向」の話だが、下げの「深さ」を増幅した要因として市場で最有力視されているのが、韓国の個人マネーの逆回転だ。韓国では2026年4月にサムスン・SK hynix個別株の2倍レバレッジETFが認可され、5月末に上場。個人投資家(保有者の約92%)の資金が殺到し、残高は約14兆ウォン(約91億ドル)まで膨張した。株価が上がる限りこの資金は買いを増幅するが、下げに転じると同じメカニズムが逆に働く。レバレッジETFは日々のリバランスで「下がった日ほど原資産を売る」構造を持つためだ。

結果として、最大のファンド(SK hynix個別株2倍、運用資産34億ドル)は上場からわずか1カ月半で約45%安(6月ピーク比では60%超安)となり、個人投資家の損失は2週間で約17億ドルに達したと報じられている。7月13日のKOSPI8.95%安・サーキットブレーカー発動の背景には、この売り連鎖が需給悪化を増幅したとの見方が強く、韓国当局は7月16日、個別株レバレッジETPの新規上場を一時停止する措置に踏み切った。サムスンとSK hynixが世界のDRAMの過半を握る以上、韓国発の需給ショックはそのままグローバルなメモリ株の値動きに直結する。東京のキオクシアや装置株への波及は、その典型例だ。

引用:Bloomberg「Leveraged Chip Bets Backfire in Korea」Bloomberg「South Korea to Halt New Listings」KED Global

■今後注目すべきイベント

時期

イベント

注目点

7月24〜27日頃

CXMTが上海STAR市場に上場

初値形成と、目論見書ベースの増産スケジュール

7月下旬

SK hynix確報決算、サムスン確報決算

HBM4の出荷計画と、DRAM/NANDの7〜9月期価格ガイダンス

7月28〜29日

FOMC

金利観測。グロース株全般の地合いに影響

7月下旬〜8月

Microsoft・Meta・Amazon・Alphabet決算

メモリ・GPU調達方針とMeta Compute構想の具体化度合い

随時

DRAM/NAND契約価格の月次改定、CoreWeaveヘッジの続報

Q3上昇率が+13〜18%レンジのどちら側に着地するか

8月以降

韓国レバレッジETFの残高推移

残高14兆ウォンの整理が進めば、増幅要因は減衰

■著者見解

筆者の結論はこうだ。今回のメモリ・NAND株の急落は、「市況の崩壊」を織り込んだものではなく、「価格上昇の減速」と「2027年以降の供給増」を、レバレッジETFの逆回転が実際以上に激しい値動きに変換したものだ。DRAM価格はまだ上がっており、マイクロンの長期契約が示す足元の需要も堅い。一方で、伸び率の減速カーブ、買い手の防衛的な動き(CoreWeave・Meta)、供給側の資金調達ラッシュ(CXMT・SK hynix)という方向性の一致は無視できず、「サイクルの後半に入った」こと自体は認めるべきだと考える。

そのうえで投資の視点を示すと、ファンダメンタルズだけを見れば今回の下げは押し目に見える。TSMCは純利益77.4%増、サムスンは営業利益19倍、マイクロンは500億ドルの売上ガイダンスと、各社の決算は軒並み底堅い。業績見通しが切り上がる一方で株価だけが3〜5割下がった結果、利益に対する株価の倍率(バリュエーション)は6月よりも明確に軽くなっており、中長期の目線では「サイクル終焉」を織り込む水準まで売られるのは行き過ぎだと筆者は考える。

ただし、需給は当面「壊れたまま」だと割り切るべきだ。韓国では残高14兆ウォンのレバレッジETFの整理がまだ終わっておらず、年内7回のサーキットブレーカーと37回のサイドカーが示す通り、値幅は制度の想定を超えている。17日には韓国が休場でも東京が4.4%安になったように、売りの連鎖は市場をまたいで伝播し、増幅装置は韓国ETFだけではなくなった。したがって、割安でも一括で拾う局面ではない。上値は重く、荒い値動きが続くことを前提に、7月下旬のサムスン・SK hynix確報決算、FOMC、CXMT上場、そしてQ3のDRAM契約価格(+13〜18%レンジに収まるか)という関門を一つずつ確認しながら、時間を分けて分割で臨むのが現実的な付き合い方だと考える。決算が需給に勝つには、まず需給の整理が終わる必要がある──今はその途中である。

■免責事項

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