Broadcom(AVGO)の2026年8月期決算は、売上・利益とも過去最高。牽引役はAI半導体で、全社売上の過半を突破。次期ガイダンスは市場予想をわずかに下回り、翌営業日の株価は5%安。カスタムAIアクセラレータの顧客名と展開規模が、今回初めて具体的な数字で開示された。

※金額は米ドル建て、特記なき限り会社の米国会計基準(US GAAP)ベース。市場予想は報道ベースで、指標ごとに集計元が異なり、同じ指標でも集計元により差がある(各表の引用元を参照)。bp(ベーシスポイント)は0.01%、pt(ポイント)は率の変化幅を表す単位で、以下同様に用いる。本文では、会社IR・SEC提出資料の確定値、決算説明会での会社説明(会社説明)、報道ベースの数値(報道ベース)、筆者自身の計算・解釈(筆者計算・筆者分析・筆者の解釈)を区別して記載する。

1. 決算サマリー:売上は前年同期比+85.5%、AI半導体が全社売上の56%を占めた

Broadcomは2026年9月2日(米国時間)、2026年8月2日に終了した第3四半期(Q3 FY2026)の決算を発表した。売上高・営業利益・フリーキャッシュフローはいずれも過去最高で、売上高295.91億ドル、非GAAP希薄化後EPS 3.32ドルはどちらも市場予想を上回った。増収の中身はほぼAI半導体1本である。

表1:Q3 FY2026 決算サマリー(単位:百万ドル、EPSはドル)

指標

Q3 FY2026 実績

Q3 FY2025

前年比

市場予想

対市場予想

売上高

29,591

15,952

+85.5%

29,360

+0.8%

GAAP 希薄化後EPS

2.68

0.85

+214.4%

---

---

非GAAP 希薄化後EPS

3.32

1.69

+96.2%

3.24

+2.5%

AI半導体売上

16,700

約5,202

+221%

---

---

インフラソフトウェア売上

8,752

6,786

+29.0%

---

---

フリーキャッシュフロー

13,665

7,024

+94.5%

---

---

引用:Broadcom Q3 FY2026 決算プレスリリース(Form 8-K Exhibit 99.1、2026年9月2日)、市場予想はBenzinga(2026年9月3日)
注1:EPSの前年比は開示された純利益と希薄化後株式数から算出した未丸め値。会社発表のプレスリリースはセント丸め後のEPS同士を比較しており、GAAP +215%、非GAAP +96%と表記されている。丸め値ベースで計算するとGAAPは+215.3%、非GAAPは+96.5%となり、いずれも未丸め値より高く出る。本表は未丸め値を採用した。
注2:市場予想は指標ごとに集計元が異なり、売上高は29,200百万ドル〜29,430百万ドル、非GAAP EPSは3.21ドル〜3.24ドルの幅がある。表では中位にあたる値を採用した。売上高を29,200百万ドルとすると対市場予想は+1.3%、29,430百万ドルとすると+0.5%になる。
注3:AI半導体売上は会社が10億ドル単位で開示するもので、GAAPのセグメント区分ではない。Q3 FY2025の値は開示された成長率+221%からの逆算(筆者計算)。
注4:一時要因を控除した参考行は設けていない。当四半期の非GAAP調整は無形資産償却・株式報酬など恒常的に発生する項目のみで、前年同期にあった事業売却益163百万ドルのような一過性項目が当四半期には計上されていないため(第3章で分解)。実力ベースの前年比較は非GAAP行が担う。

2. 増収額136.39億ドルの84%はAI半導体1本によるもので、非AI半導体は前年比+5%にとどまった

連結売上は前年同期比+85.5%、前四半期比でも+33.4%と伸びた。ただしこの成長は全社に均等に配分されているわけではない。増収額136.39億ドルのうち半導体ソリューション部門の寄与が116.73億ドルで全体の85.6%、うちAI半導体だけで約114.98億ドル、全体の約84.3%にあたる。裏を返せば、AI半導体を除いた事業全体の増収寄与は16%弱でしかない。

表2:セグメント・製品区分別の売上と増収寄与(単位:百万ドル)

区分

Q3 FY2026

構成比

Q3 FY2025

構成比

前年比

増収額

増収寄与

半導体ソリューション

20,839

70.4%

9,166

57.5%

+127.4%

+11,673

85.6%

 うちAI半導体

16,700

56.4%

約5,202

32.6%

+221%

約+11,498

約84.3%

 うち非AI半導体

4,200

14.2%

約4,000

25.1%

+5%

約+200

約1.5%

インフラソフトウェア

8,752

29.6%

6,786

42.5%

+29.0%

+1,966

14.4%

連結合計

29,591

100.0%

15,952

100.0%

+85.5%

+13,639

100.0%

引用:Broadcom Q3 FY2026 決算プレスリリース、AI/非AIの内訳は同社決算説明会(Benzinga掲載の書き起こし、2026年9月2日)
注1:セグメント2区分(半導体ソリューション+インフラソフトウェア)の合計は連結売上と一致する。消去項目はない。
注2:AI半導体と非AI半導体は会社が説明会で10億ドル単位で示した数値で、合計20,900百万ドルは半導体ソリューション部門の確定値20,839百万ドルと61百万ドル差がある。丸めによる差であり、AI/非AIの行の構成比・増収寄与はいずれも「約」を付した概算(筆者計算)。Q3 FY2025のAI・非AIは開示された成長率からの逆算で、合計は同部門の確定値9,166百万ドルと36百万ドル差がある。
注3:構成比の合計は四捨五入により100.0%とならない場合がある。

AI半導体の167億ドルは前四半期比でも+54.6%と伸びが加速している。会社説明によれば内訳はカスタムAIアクセラレータ(XPU)が73%、残りがイーサネットスイッチなどのAIネットワーキングで、XPUの出荷は前年同期比3.5倍超、AIネットワーキングは同2.5倍超。XPUとは特定顧客のAIワークロード専用に設計された演算チップで、汎用GPUの対極にある製品である。

図1:全社売上に占める比率(引用:Broadcom各四半期決算発表および決算説明会)

顧客側の動きは、今回かなり具体的に語られた。会社説明では、XPUの顧客は6社で、うち4社の規模が突出しているという。Googleとは将来世代のTPU(Tensor Processing Unit、Googleが設計するAI演算チップ)とAIネットワーキングを供給する長期契約を結び、今後数年にわたり年間数百億ドル規模を供給する計画だという。Anthropic向けは2026年に1ギガワット分を展開中で、2027年に5ギガワット、2028年にさらに10ギガワットを見込み、2027年にはXPU最大顧客になるとの説明があった。OpenAI向けの第1世代アクセラレータ「Jalapeno」は2027年に1.3ギガワット、2028年には5ギガワット超で第2位の顧客になる見通し。Meta向けにはMTIAアクセラレータを2027年末までに3世代供給する。

先行指標としては、四半期報告書に開示される残存履行義務(RPO=契約済みで未計上の売上。Remaining Performance Obligations)がある。2026年5月3日時点で顧客に解約権のない複数年契約などの確定額は約1,646億ドル、うち約30%を今後12か月に売上計上する見込みで、同四半期に締結したカスタムAIアクセラレータの長期契約が含まれる。ただし解約自由条項のある契約や1年以内の契約は除かれるため、会社自身が「将来期間の売上を示すものではない」と明記している。なお2026年8月2日終了四半期のForm 10-Qは本記事のデータ取得時点で未提出であり、上記はQ2 FY2026のForm 10-Qの数値である。

非AI半導体は前四半期比横ばい、前年同期比+5%で、循環的な回復とも停滞とも言い切れない。インフラソフトウェアは前四半期比+21.9%だが、会社説明による年間経常収益(ARR)の伸びは前年比15%で、売上の伸び29.0%との差はライセンス計上のタイミングによる部分が大きいとみられる(筆者の解釈)。

3. 非GAAP粗利率は前年同期比▲336bpの75.0%へ低下したが、営業費用比率が573bp改善したため営業利益率は67.9%まで上昇した

今回の決算でいちばん分解する価値があるのは利益率である。非GAAP粗利率75.0%は直近5四半期で最も低い水準にある。1年前の78.4%からも、前四半期の77.1%からも下がった。会社説明では、XPUの構成比上昇とXPU1個あたりのメモリ搭載量増加が粗利率を希薄化しているとされる。

表3:利益率の推移(単位:百万ドル、%)

指標

Q3 FY2025

Q4 FY2025

Q1 FY2026

Q2 FY2026

Q3 FY2026

Q4 FY2026 ガイダンス

売上高

15,952

18,015

19,311

22,187

29,591

約34,800

非GAAP粗利率

78.4%

77.9%

77.0%

77.1%

75.0%

約73%

非GAAP営業費用の対売上比

12.8%

11.8%

10.6%

9.8%

7.1%

---

非GAAP営業利益率

65.5%

66.2%

66.4%

67.3%

67.9%

約66%

GAAP営業利益率

36.9%

41.7%

44.3%

48.6%

53.9%

---

引用:Q3 FY2026 決算プレスリリースQ2 FY2026 決算プレスリリースQ4 FY2025 決算プレスリリース
注1:各比率は各四半期のプレスリリースに開示された非GAAP粗利益・非GAAP営業費用・非GAAP営業利益および売上高から算出(筆者計算)。Q1 FY2026の数値はQ2 FY2026プレスリリースの比較欄から取得した。
注2:非GAAP粗利率と非GAAP営業費用の対売上比の差が非GAAP営業利益率と一致する。たとえばQ3 FY2026は75.0%−7.1%=67.9%。
注3:Q4 FY2026は会社ガイダンス。粗利率約73%・営業利益率約66%はいずれも決算説明会で示された概数で、営業費用比率のガイダンスは示されていない。

それでも非GAAP営業利益率は67.9%と、表3の期間では最高水準に達した。理由は営業費用にある。非GAAP営業費用は2,044百万ドルから2,096百万ドルへ2.5%増えただけで、売上が85.5%伸びたため対売上比は12.8%から7.1%へ下がった。粗利率の336bp低下を営業費用比率の573bp改善が上回った結果が、営業利益率の237bp上昇である。

図2:非GAAP営業利益率の前年同期比変化の分解(引用:Broadcom Q3 FY2026決算プレスリリース。利益率と変化幅は筆者計算)

部門別では、半導体ソリューション部門の営業費用は売上の6%、営業利益率は61%で前年から440bp上昇。インフラソフトウェア部門は粗利率94%、営業利益率約84%で同650bp上昇している(会社説明)。粗利率だけを見ると悪化、営業利益率で見ると改善という、方向の異なる2つの事実が同時に起きている点が今回の決算の特徴である。

EPS:GAAPと非GAAPの差3,284百万ドルは無形資産償却と株式報酬が中心で、一過性の項目はない

GAAP純利益13,088百万ドルと非GAAP純利益16,372百万ドルの差は3,284百万ドル。中身は買収関連無形資産の償却2,006百万ドルと株式報酬費用2,019百万ドルがほぼすべてで、ここに事業再編等115百万ドルと債務消滅損75百万ドルを足し、非GAAP税調整▲931百万ドルを引くと差額に一致する。

この4項目はどれも当四半期固有ではなく、直近4四半期のすべてに計上されている。むしろ特異だったのは過去のほうで、Q4 FY2025には21億ドルの一時的な非現金税務ベネフィット(時効の成立で過年度の税務引当を戻した処理。)、Q1 FY2026には営業外損益に315百万ドルの物品税還付があった。今回の調整に一過性の項目はない。

EPSの成長率も検算しておく。非GAAP純利益は前年同期比1.948倍、非GAAP希薄化後株式数は4,972百万株から4,937百万株へ0.993倍。1.948÷0.993=1.962倍で、成長率+96.2%は開示EPSから計算した値と一致する。

株式数には注意点がある。非GAAPの株式数はGAAPの4,887百万株より50百万株多い。未認識の株式報酬費用ぶんの自己株式取得を非GAAPでは仮定しないためで、非GAAP EPSはその分だけ控えめに出る。

キャッシュフローと資本配分:FCFマージン46.2%、長期債務を1四半期で54.88億ドル圧縮

営業キャッシュフロー14,197百万ドルから設備投資532百万ドルを差し引いたフリーキャッシュフローは13,665百万ドル、売上に対して46.2%(前年同期は44.0%)。設備投資が売上の1.8%にとどまる点がこの水準を支えている。売上債権は前四半期末10,830百万ドルから13,707百万ドルへ増えたが、回転日数は44.4日から42.2日へ短縮しており、売上の伸びに対して過大に膨らんでいるわけではない(筆者計算、四半期日数は91日)。

資本配分では、Q3の自社株買いはゼロ。配当3,103百万ドルを支払い、長期債務は62,655百万ドルから57,167百万ドルへ5,488百万ドル減少した。現金は23,975百万ドルへ積み上がり、差引の純有利子負債は1四半期で98.35億ドル縮小している(筆者計算)。利益剰余金の増加9,985百万ドルは純利益13,088百万ドルから配当3,103百万ドルを引いた額と一致し、追加払込資本の増加2,018百万ドルも株式報酬費用2,019百万ドルとほぼ同額で、資本の部に説明のつかない変動はない(筆者分析)。

4. Q4ガイダンスは売上約348億ドルで市場予想を0.7%下回った一方、FY2027・FY2028のAI半導体売上見通しは1,150億ドル・2,300億ドルへ引き上げられた

まず実績とガイダンスの答え合わせから。前四半期のプレスリリースで示されたQ3の会社ガイダンスは売上約294億ドル、非GAAP営業利益率約67%、AI半導体売上160億ドルだった。実績はそれぞれ295.91億ドル(+0.65%)、67.9%、167億ドル(+4.4%)で、3つとも上振れしている。粗利率も会社ガイダンス74%を約100bp上回った(会社説明)。

表4:Q4 FY2026 ガイダンス(単位:百万ドル、EPSはドル)

指標

Q4 FY2026 ガイダンス

市場予想

対市場予想

Q4 FY2025 実績

前年比

売上高

約34,800

35,030

▲0.7%

18,015

+93.2%

 半導体ソリューション

約26,100

---

---

11,072

+135.7%

 うちAI半導体

21,700

---

---

約6,458

+236%

 インフラソフトウェア

約8,700

---

---

6,943

+25.3%

非GAAP粗利率

約73%

---

---

77.9%

約▲490bp

非GAAP営業利益率

約66%

---

---

66.2%

ほぼ横ばい

非GAAP EPS(会社は非開示・筆者試算)

約3.80

---

---

1.955

約+94.5%

引用:Q3 FY2026 決算プレスリリース同社決算説明会(Benzinga掲載の書き起こし)Q4 FY2025 決算プレスリリース、市場予想はBenzinga(2026年9月3日、LSEG集計)
注1:会社はレンジではなく単一の概数でガイダンスを示すため、中心値の算出は不要。
注2:Q4 FY2025のAI半導体売上は開示された成長率+236%からの逆算(筆者計算)。Q4 FY2025の非GAAP EPSは非GAAP純利益9,714百万ドル÷非GAAP希薄化後株式数4,969百万株=1.955ドル(未丸め、開示値は1.95ドル)。
注3:非GAAP EPSは会社がガイダンスを提示していないため筆者が試算した参考値。算式は「売上34,800×営業利益率66%=営業利益22,968 − 非GAAP支払利息700 + 営業外収益98 = 税引前22,366、非GAAP実効税率16%を適用して純利益18,787、非GAAP希薄化後株式数4,940百万株で除して3.80ドル」。支払利息と営業外収益はQ3 FY2026の実績水準(それぞれ703百万ドル、98百万ドル)を置いた。税率16%と株式数4,940百万株は会社が説明会で示した数値。同じ手順をQ3 FY2026に当てはめると、営業利益20,095−利息703+営業外収益98=19,490、税率16.0%で純利益16,372となり実績と一致し、EPSも3.3162ドルで開示値3.32ドルと合う。
注4:Broadcomは通期の連結売上ガイダンスを提示していないため、通期見通しの上方修正・下方修正という論点はそもそも存在しない。

Q4ガイダンスの売上約348億ドルは、市場予想350.3億ドルを0.7%下回った。金額にすると2.3億ドル、前年比では+93.2%という数字である。この0.7%が、後述する株価反応の直接の引き金になった。

一方、年度単位のAI半導体売上見通しは引き上げられた。FY2026は従来の560億ドルから580億ドル(前年比+186%)へ、FY2027は「1,000億ドル超」から約1,150億ドルへ具体化し、FY2028は約2,300億ドルという数字が新たに示された。会社説明では、FY2027・FY2028とも供給を確保済みで、顧客需要はこの見通しをむしろ上回るとされている。BroadcomのCEO、ホック・タン氏は、この2年間で合計約3,500億ドルのAI半導体を出荷できるという見方を示し、あわせてFY2028に1株当たり利益30ドル超を達成する見込みだと述べた。LSEG集計のFY2028非GAAP EPS予想は25.86ドルと報じられており(報道ベース)、会社目標はこれを約16%上回る。

図3:AI半導体売上の年度見通し(引用:Broadcom決算説明会。FY2025は開示成長率からの筆者計算)

成長率の方向については注意が必要だ。前年同期比では、Q3の伸び率に対しQ4ガイダンスの+93.2%は加速している。一方、前四半期比で見るとQ3の+33.4%に対しQ4は+17.6%で減速する。記事全体で成長率を前年同期比で語る以上、今回のガイダンスは「加速」と表現するのが整合的である。実績とガイダンスを並べた表3を見れば、売上の絶対額が四半期ごとに階段状に上がっていることも確認できる。

5. 有利な材料はキャッシュ創出力と2年分の需要見通し、不利な材料は粗利率の低下と顧客支援の保証

以下は当四半期の開示から筆者が整理したポイントである。判断の材料を有利・不利に分けて並べたもので、優劣を採点したものではない。

ポジティブ要因

  • 2年先までの売上見通しに「供給確保済み」という条件が付いた。FY2027約1,150億ドル・FY2028約2,300億ドルは、先端ウェハ・基板・HBMメモリの供給を確保したうえでの数字だと会社は説明している。
  • 粗利率の低下を営業費用の抑制で吸収する構造ができている。半導体ソリューション部門は売上127.4%増に対し営業費用22%増にとどまり、営業費用は売上の6%まで下がった。
  • キャッシュ創出力と財務改善が同時に進んでいる。フリーキャッシュフローが売上の46%超に達する一方、1四半期で長期債務を54.88億ドル減らし、手元現金を239.75億ドルまで積み上げた。
  • 顧客の内訳が名指しで具体化された。これまで匿名で語られてきた需要に輪郭が与えられ、四半期ごとの検証が可能になった。
  • 契約残高(RPO)が約1,646億ドルある。カスタムAIアクセラレータの長期契約を含み、うち約30%を1年以内に売上計上する見込みとされている。

リスク要因

以下は筆者整理のリスクシナリオであり、発生を予測するものではない。

  • 粗利率の低下が続く前提でガイダンスが組まれている。Q4の非GAAP粗利率見通し約73%は1年前から約490bpの低下で、メモリ価格が想定を上回れば低下幅はさらに広がりうる。営業費用比率の改善余地は無限ではない。
  • 顧客集中が構造的に高い。1社の設備投資計画の変更が四半期売上に直接響く構造で、しかも中心となる4社のうち2社は営利事業としての歴史が浅いAIラボである。
  • AI XPVプラットフォームに伴う偶発債務がある。第1トランシェ350億ドルについて、顧客の完全なデフォルトと機器残価ゼロという極端な前提での最大エクスポージャーは約290億ドルと開示されている。半導体を売るだけの事業ではなくなりつつある点は、従来の同社の財務プロファイルにはなかった要素だ。
  • 見通しの前提が顧客側のデータセンター建設に依存している。チップを出荷できても土地・電力・建屋の準備が間に合わなければ売上計上は後ろにずれ、ホック・タン氏自身、合計30ギガワット分すべてが2年で稼働するとは言っていないという趣旨の説明をしている。FY2028のEPS目標も決算説明会での発言で、SEC提出資料に記載はない。
  • カスタムチップ市場に競合が参入している。会社はMediaTekより先にTPU version 8iを出荷したと説明しており、裏を返せば同じ顧客の同じ世代を競合が狙っているということでもある。
  • 売上債権が1四半期で28.77億ドル増えた。回転日数では改善しており現時点で警戒水準とは言いにくいが、顧客が少数に集中している以上、1社の支払遅延の影響は相対的に大きくなる。

6.決算はmixedで、次期売上ガイダンスの0.7%の未達が重荷となり株価は翌営業日▲2.74%となった

今回の評価はmixed――実績は市場予想を上回ったが、次期売上見通しは予想未達と整理する。会社が以前に示した同じ四半期の予想を引き下げたわけではないため、「ガイダンス下方修正」とも区別する。

表5:株価反応とバリュエーション(単位:ドル、%)

時点・指標

実額・値

比較基準

騰落率・補足

8月31日終値

370.34

9月1日の計算基準

---

9月1日・発表前日終値

369.68

370.34

▲0.18%

9月2日・発表当日終値

367.24

369.68

▲0.66%

9月2日・発表後時間外

---(実額未確認)

通常取引終了後

一時約▲5%と報道。その後下げ幅縮小

9月3日・翌営業日終値

357.16

367.24

▲2.74%

9月4日・翌々営業日終値

357.90

357.16

+0.21%

発表後2営業日の累計

357.90

367.24

▲2.54%

年間配当換算利回り

0.73%

0.65×4÷357.90

将来の配当を保証しない参考値

予想PER・PEG

記載しない

同一時点・同一定義の予想EPSと成長率を確定できず

---

引用:Stock Analysis株価履歴CNBC記事の転載本文Reuters更新記事会社配当発表
注1:日付は米国東部時間。通常取引の騰落率は記載の終値から筆者計算。時間外は正確な約定時刻・価格の組を確認できず、騰落率を実額から再計算した確定値とは扱わない。初動の約5%安は単一転載記事による。
注2:Reutersの9月2日19時32分更新版では時間外は1%超安。時間外の異なる時点と翌日の終値を混同しない。利回りは9月4日終値と発表済み四半期配当の年率換算。
注3:当サイトは投資助言を行わないため、割安・割高の判断や目標株価は提示しない。

9月3日は357.16ドルで引け、翌日は357.90ドルへ小反発した。発表後2営業日では▲2.54%。売りを実績悪化だけで説明することは難しい。次期連結売上は市場予想より2.30億ドル少なく、粗利率と営業利益率にも前四半期比の低下が見込まれる。高い前年比成長率より、次の四半期が期待をどこまで上回るかを市場が重視したと考える(筆者分析)。

一方、発表前日と当日の通常取引はいずれも下落しており、「直前の急騰の反動」とだけ説明する根拠は乏しい。AI売上が連結売上や半導体全体と混同されると、予想超過幅も誤って見える。会社開示の事業区分と会計基準をそろえる必要がある。

直近には、数日で大きく下落した局面もある。前回決算を挟んだ6月3日の取引時間中高値495.00ドルから、6月5日の同安値385.59ドルまでの下落幅は▲22.10%だった。終値同士の比較ではないが、業績が伸びても期待の修正で株価が大きく動く例である。引用:日次株価履歴。半導体の需要循環に加え、AI投資への期待そのものの変化も評価を左右する。

筆者の解釈では、今回の中核は「粗利率の低下を、売上規模と営業費用の抑制で補った」ことにある。その仕組みが続くかを、売上成長率だけでなく利益額と現金回収から判断したい。

次回決算までの確認ポイント

  1. AI半導体の出荷が次期見通しに沿って進み、顧客側の導入延期が生じていないか。
  2. 粗利率低下を営業費用の抑制で補い、営業利益額を伸ばせるか。
  3. 売掛金・設備投資とFCFがどう動き、顧客支援の保証枠に追加変更があるか。
  4. 新しい10-QのRPOが更新され、対象契約や売上認識時期がどう変化するか。

出典

免責

本記事は情報提供を目的とし、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。金額は米ドル、会計基準はUS GAAPで、会社は非GAAP指標も開示しています。対象は2026年11月1日に終了予定の2026年度第3四半期、2026年5月4日~8月2日で、一般に5–7月期と表現される期間に相当します。実績は会社の未監査開示に基づき、数値・予想・株価は修正や更新で変動しえます。投資判断はご自身の責任で行ってください。