会社概要

ASML Holding N.V.はオランダ・フェルトホーフェンに本社を置き、半導体製造の中核工程である露光(リソグラフィ)装置を世界に供給する最大手である。先端ロジック・メモリの量産に不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置を独占的に供給し、High NA EUV(0.55 NA)も商用展開している。収益モデルは新規システム販売(EUV/DUV:液浸・ドライ)と、稼働中装置のサービス・性能アップグレードを担うInstalled Base Management(IBM)、加えてYieldStar光学計測やHMI電子ビーム検査などのメトロロジー/検査・ソフトウェア事業から構成される。主要顧客はTSMC、Samsung、SK hynix、Micron、Intelなど世界の主要ファウンドリ/IDMであり、地域別売上は台湾・韓国・中国・米国・日本に集中する。

EUV露光装置は波長13.5nmの極端紫外線を用いて5nm以下の先端ノードを単露光で実現するリソグラフィ装置である。溶融スズ(Sn)液滴に高出力CO2レーザーを照射してプラズマ化し、13.5nm放射を取り出す方式(LPP:Laser-Produced Plasma)を採用し、EUV光があらゆる物質に吸収される性質から屈折光学系が成立しないため、装置は独カール・ツァイスSMTが供給する反射型ミラー光学系と真空環境で構成される。

光源・光学系・ステージ精度・ペリクル・レジスト・マスクの全領域でサプライチェーンの参入障壁が極めて高く、これがニコン/キヤノンが追随できない構造的要因となっている。製品ラインは開口数(NA)で2系統に分かれ、0.33 NAのNXEシリーズ(最新機NXE:3800Eは解像度1.1nm未満・スループット195〜220 wph)が5nm/3nm/2nmロジックおよび先端DRAMの量産主力を担う。0.55 NAのEXEシリーズ(High NA EUV)は単露光で8nm解像度を実現し、NXE比1.7倍細密なパターンを描画、トランジスタ密度を2.9倍まで高めることで、マルチパターニング工程の削減によるコスト・サイクルタイム・欠陥率の同時改善を可能とする。商用初号機NXE:5200Bは2025年9月にSK hynix Icheon M16工場へ搬入され、Intel D1XのR&D段階から量産現場への展開フェーズに移行している。装置単価は標準EUVが€180–220M前後、High NA EUVは€350M超とされ、装置単価とミックスがASML売上を直接押し上げる構造にある。

事業の核:先端半導体の量産に不可欠なEUV/DUV露光装置と関連サービスを世界に供給するリソグラフィ装置メーカーである。

競合はDUV領域でNikon Corporation、Canon Inc.が残余シェアを分け合い、周辺装置ではTokyo Electronなどが存在するが、EUVはASMLの独占であり先端ノード向けでは依然として圧倒的優位にある。

セグメント情報

(1) Net system sales(EUV):EUVおよびHigh NA EUV露光装置の新規販売であり、先端ロジック/DRAMの量産に必須である。2025年通期売上は€11.6B(48台、High NA含む)、前年比+39%、2026年Q1のEUVシステム売上は€4.1B(前年比+28%)と成長を牽引する。AI向け先端ロジック投資、DRAM/HBM需要、High NAの本格立ち上げが推進力であり、独占的供給力という最大の強みを持つ。

(2) Net system sales(DUV:液浸/ドライ):ArF液浸/ドライおよびKrF露光装置で、成熟~ミドル世代から先端まで幅広く対応する。2025年通期売上は約€12Bと前年比-6%で、中国向け正常化を反映した。中国を中心とした成熟ノード投資、HBM需要、グローバルファウンドリ拡張が需要源だが、輸出規制と中国比率正常化が短期の弱みとなる。

(3) Installed Base Management(IBM):稼働装置のサービス、フィールドオプション、性能アップグレード、リファビッシュを提供する。2026年Q1売上は€2.5B、前年比+25%と、EUV設置ベース拡大に伴い安定成長している。顧客の即時生産能力増強需要を取り込むストック型ビジネスとして、収益安定の柱となる。

(4) Metrology & Inspection(YieldStar、HMI):光学計測(YieldStar)と電子ビーム検査(HMI)によるプロセス制御・歩留まり改善を担う。2025年通期売上は€825M、前年比+28%。先端ノードの歩留まり管理ニーズとHigh NA導入に伴う計測高度化が追い風だが、絶対規模は小さく装置事業の補完的位置付けである。

成長を最も牽引するのはEUV/High NAを含むNet system sales(EUV)であり、IBMが収益の安定基盤を支える構図である。

業績推移

(単位:百万ユーロ、EPS・配当は1株あたりユーロ。年度は12月期。US GAAPベース)

年度

売上高

営業利益

純利益

希薄化EPS

配当

FY2023(2023年12月期)

27,559

9,042

7,839

€19.89

€6.10

FY2024(2024年12月期)

28,263

9,023

7,572

€19.24

€6.40

FY2025(2025年12月期)

32,667

11,301

9,609

€24.71

€7.50

3年間の推移を見ると、2024年は半導体市況の本格回復にはまだ時間がかかり、顧客の投資判断も慎重だった。中国向け売上は依然として高水準を維持していたものの、全体としては移行期にあたり、売上高は前年比+2.6%の小幅増にとどまった。営業利益はほぼ横ばい(€9,023M、+0.2%)、純利益は-3.4%の小幅減で、利益率は前年並みを維持した。

一方、2025年はEUVシステム売上の急伸(前年比+39%)とInstalled Base Management(既存装置の保守・アップグレード等)の拡大により、売上高は€32.67B、営業利益は€11.30Bへと一段成長した。営業利益率は2023年32.8%、2024年31.9%、2025年34.6%と推移しており、2025年に収益性が明確に改善している。

引用:ASML_Presentation Investor Relations Q4 2025

株価と指標

2026年4月30日 終値
株価:
$1,394.08
予想PER(Forward P/E):
38.06倍
実績PER(Trailing P/E / TTM):
45.98倍
PBR(Price/Book, mrq):
21.89倍
予想配当利回り(Forward Dividend & Yield):
0.64%

引用:Yahoo Finance「ASML Holding N.V. (ASML)」

52週レンジは$651.46〜$1,547.22で、現在は高値圏に近い水準にある。実績PER45.98倍に対して予想PERが37.88倍まで低下しているのは、2026年通期ガイダンス(€36-40B、前年比+10〜22%)への業績拡大期待が織り込まれているためである。PBR21.89倍・予想配当利回り0.64%は、装置メーカーとしては高めのバリュエーションと低めの利回り水準であり、ASMLが「ディフェンシブな配当株」ではなく「成長株」として評価されています。

今後の注目点とリスク

カタリストとしては、2026年通期売上ガイダンス€36-40B(従来€34-39Bから引き上げ)の進捗、Q2以降の上振れ/下振れ要因、EUV/High NA EUVの出荷台数動向、Installed Base Management(IBM)売上の伸長、粗利率トレンド(2026年ガイダンス51-53%)におけるHigh NA構成比・Fast Shipment・サービスミックスの影響が挙げられる。AI向け先端ロジック顧客(TSMC・Intel・Samsung)のFab投資計画とWFE市場見通しも重要な前提となる。

リスク面では、米国・オランダによる対中輸出規制の強化と中国向け売上比率の正常化(2024年36%→2025年想定20%前後)、TSMC・Samsung・Intel・SK hynix・Micronなど少数顧客への集中、半導体産業の循環性に伴う業績ボラティリティ、High NA EUV(0.55 NA)の量産立ち上げ・歩留まり・顧客採用ペースに関する技術/実行リスク、Carl Zeiss SMT等の単一供給元依存やレアアース等の地政学的供給制約、為替変動(売上は主にUSD・JPY建て、本社通貨はEUR)および税制・法規制変更が指摘される。

隠れた前提として、Q1 2026より受注額(Bookings)の個別開示が取り止められたため、需要動向は経営コメントを通じた質的把握に依存する点に留意が必要である。直近のチェックポイントは、Q2 2026売上見通し€8.4-9.0Bおよび粗利率51-52%の達成度合い、ならびに通期ガイダンスの再修正余地である。

引用:ASML Q1 2026 Press ReleaseASML_Presentation Investor Relations Q4 2025

まとめ

ASMLはEUV露光装置の独占的供給者として、AI半導体需要拡大に伴う先端ロジック・HBM投資の恩恵を最も直接的に受け、2025年売上€32.67B・営業利益率34.6%、2026年通期ガイダンス€36-40Bへの引き上げという強みを示している。一方で対中輸出規制と中国向け売上比率の正常化、High NAの量産立ち上げ実行リスク、少数顧客への依存度といったリスクが業績ボラティリティの源泉となる。次の注目点はQ2 2026売上€8.4-9.0Bおよび粗利率51-52%ガイダンスの達成度合いと、通期€36-40Bレンジの進捗である。

※本記事は2026年04月30日時点の情報に基づいて作成されています。投資判断はご自身の責任で行ってください。