本稿は、2026年1月から7月までの米国経済の動きを、7つの主要指標のグラフを通じて振り返るものです。各指標の定義や基本的な見方については、姉妹記事「米国の主要経済指標ガイド」で解説していますので、あわせてご参照ください。

米国株式市場は、大きく「景気(成長のペース)」「物価(インフレの推移)」「金利(資金調達コスト)」という3つの軸で動きます。経済指標は、この3つの状態を定点観測するための手がかりであり、その変化を追うことで市場が織り込みつつある変化の兆しを読み取ることができます。

半年間の要点

第一に、2月末、中東情勢(イランを巡る軍事的緊張)の緊迫化を受けて原油価格が急騰し、これが物価上昇圧力として波及しました。

第二に、6月には一時的な停戦が成立し、原油・物価とも落ち着きを取り戻しつつありました。6月分の統計には、この緩和がすでに反映されています。

第三に、しかし7月上旬に停戦が破綻し、原油は再び上昇に転じました。雇用の増加ペースは鈍化し、株価は直近高値から調整しています。下半期は、「6月に確認された落ち着き」と「7月に再燃したショック」がせめぎ合う局面です。

いまの主な数字(2026年7月21日時点)

指標

最新の値

ひとことで言うと

実質GDP(1〜3月・年率)

+2.1%

景気は減速しつつも堅調。4〜6月の推計は+1.7%

雇用の増加数(6月)

+5.7万人

増えてはいるが、勢いはかなり鈍化

失業率(6月)

4.2%

低水準を維持(5月4.3%からやや低下)

物価・CPI(6月・前年比)

+3.5%

5月の4.2%から大きく低下(原油安が効いた)

物価・コアPCE(5月・前年比)

+3.4%

FRB重視の指標。まだ高止まり

政策金利(FF金利)

3.50〜3.75%

3会合連続で据え置き

原油(ブレント・7/20)

約$88

6月下旬の$70台前半から、停戦崩壊で再上昇

S&P500(7/20)

約7,437

最高値7,621からやや反落

※市場データ(原油・金利・株価)は特記なき場合、現地7月20日の終値ベース。統計値は各官庁の公表・改定値です。

グラフの読み方(共通):横軸は「月」、点はその月に発表された値です。物価や金利は「1年前と比べて何%か(前年比)」や「水準」、雇用は「その月に増えた人数」を表します。線がいつ角度を変えたかに注目すると、2月末の紛争 → 3〜4月にピーク → 5〜6月に反落 → 7月に再上昇、という半年の物語が、どの指標にも共通のリズムで刻まれているのが見えてきます。それでは1つずつ見ていきましょう。

■景気全体(GDP)──減速下でも視野に入る「軟着陸」

GDP(国内総生産=国全体で生み出された付加価値の合計)は、景気の最も基礎的な指標です。「年率」とは、そのペースが1年続いた場合の成長率を指します。BEA(米商務省経済分析局)の確報で1〜3月(第1四半期)は年率+2.1%となり、前四半期(2025年10〜12月の+0.5%)から明確に加速しました(下図)。

4〜6月については、アトランタ連銀のリアルタイム推計「GDPNow」が7月17日時点で+1.7%(実績ではなくモデル推計)。市場の見立ては「減速はするが景気後退(リセッション)は回避する」という軟着陸に収れんし、ゴールドマン・サックスは12カ月先のリセッション確率を、原油ショックのピーク(3月)の30%から7月初旬に15%へ引き下げました。もっとも、この引き下げは停戦・原油下落を前提としたもので、7月の紛争再燃により前提は揺らいでいます。

実質GDP成長率(前期比年率)。2025年Q4の+0.5%から2026年Q1は+2.1%へ加速。Q2はアトランタ連銀「GDPNow」による推計値(+1.7%、7/17時点=薄い棒)で、速報前のモデル試算である点に注意。出所:BEA(確報)/アトランタ連銀(Q2推計)。

■物価・インフレ──春の急騰から6月の反落へ

上半期の中心テーマです。まず基調を映す「コア」指標(変動の激しい食品・エネルギーを除き、物価の地力を見るためのもの)から。コアCPI(消費者物価指数)は3月に2.6%で底を打ち5月2.9%まで戻したのち、6月は再び2.6%へ低下しました。一方、FRBが最重視するコアPCE(個人消費支出物価指数)は5月3.4%(2023年10月以来の高水準)と、なお高止まりしています。

図1:コアインフレ率の推移(前年比)。コアCPIは5月2.9%→6月2.6%へ再低下、コアPCEは5月3.4%と高止まり。点線はFRBの2%目標(厳密には総合PCE物価指数に対する長期目標)。CPIは6月・PCEは5月まで。出所:BLS・BEA。

食品・エネルギーを含む「総合(ヘッドライン)」の物価は、原油の動きをそのまま映しました。総合CPIは5月4.2%でピークをつけたのち、6月は3.5%へ急低下(前月比−0.4%は2020年4月以来の大幅マイナス)。仕入れ段階の物価を示すPPI(生産者物価指数=「川上」のコスト)も5月6.5%→6月5.5%へ低下し、6月単月ではガソリンが−12.0%と急落しました。引用:BLS 2026年6月CPI同6月PPI

図2:総合CPI・総合PCE・PPIの推移(前年比)。いずれも原油急騰で春に角度を立て、6月に反落。点線は2%目標。総合PCEは5月まで(6月は7/30発表)。出所:BLS・BEA。

筆者の見立てでは、6月の統計は原油が安かった6月下旬を映した「過去の安心」です。7月の原油再上昇は数カ月のラグを伴って7〜8月のヘッドラインを押し上げる可能性があり、その裏で粘着質なコア(特にPCE)がどこまで下がるかが焦点になります。最初の答え合わせは7月30日発表の6月PCE、次いで8月中旬の7月CPIです。

■雇用──「振れながら減速」が鮮明に

NFP(非農業部門雇用者数=その月に増えた雇用の数)は、景気の体温を月次で測る最重要指標です。改定後の月次値は1月+16.0万→2月−13.3万(一時マイナス)→3月+18.5万と乱高下し、そこから4月+14.8万・5月+12.9万・6月+5.7万人へ切り下がりました。6月はレジャー・接客業が−6.1万人と足を引っ張り、伸びは過去12カ月平均(+3.6万人)並みの低水準です。引用:BLS 2026年6月雇用統計

図3:月次NFP(改定値・千人)と損益分岐点。棒=雇用の増加数(下向き=減少)。2月は−13.3万人と一度マイナスに沈み、6月は+5.7万人まで鈍化。赤点線=失業率を横ばいに保つのに必要な雇用増(推計・約6万人)。出所:BLS。

ここで重要なのが「損益分岐点(ブレークイーブン)」──失業率を横ばいに保つのに必要な雇用増、いわば人口増を吸収する最低ラインです。移民流入の減少で労働供給の伸びが鈍り、この水準は一部推計で月6万人程度まで低下しているとされます(試算主体により幅がある点には留意)。この見方に立てば、6月の+5.7万人はちょうど分岐点に並ぶ水準であり、雇用の増勢が労働供給の伸びをかろうじて吸収する程度まで細ったことになります。

図4:失業率の推移。上半期は4.3%前後で横ばい、6月はむしろ4.2%へ小幅低下。雇用増が鈍化しても失業率が上がっていない背景には、労働参加の縮小もある。6月まで。出所:BLS。

物価警戒から利上げ寄りに転じたFRBにとって、雇用の減速は利上げを踏みとどまる数少ない材料です。次の関門は8月7日発表の7月雇用統計。NFPが分岐点を上回れるか、失業率が4.2%台で止まるかが焦点になります。

■原油・金利・インフレ期待──上半期の「震源」

この3つは相互に連動し、上半期の物語の起点となりました。ブレント原油(世界の代表的な原油価格)は1月$77・2月$74と静かでしたが、2月末の紛争開始で3月に約$118へ急騰。その後、6月17日に署名された暫定的な覚書(MOU)──停戦を60日延長し、米海軍の封鎖解除とホルムズ海峡再開を定めた枠組み──を受けて、6月下旬には$70台前半まで戻しました(EIAの6月月平均は約$85)。ところが7月上旬に停戦が破綻し、7月8日にトランプ大統領が停戦の終了を表明。原油は7月8日に1日で約9%上昇(ICE先物・終値ベース)、7月20日は約$88へ切り返しています。引用:米イラン、署名3週間で再び戦火(当ブログ)

図5:ブレント原油価格の推移(月末概算・7月は7/20終値)。3月に約$118へ急騰、6/17の暫定MOUで6月下旬に$70台前半へ低下、7月上旬の停戦破綻で再上昇。物価・金利・期待はこの線をほぼなぞった。出所:EIA/ICE/各種報道。

金利も原油の山と谷に連動しました。10年国債利回り(長期金利の代表で、住宅ローン等の目安)は3〜4月に4.7〜4.8%まで上振れ、6月末は約4.37%へ低下したのち、7月20日は約4.60%へ再上昇。30年固定住宅ローン金利も4月の約7.05%から6月6.49%へ落ち着いたのち、7月16日は6.55%へ小反発しました。金利上昇の「中身」が、6月の『警戒後退による落ち着き』から7月は再び『インフレ・供給不安の警戒』へ振れつつある、というのが筆者の見立てです。

図6:10年国債利回りと30年固定住宅ローン金利(10年は7/20、住宅は7/16時点)。ともに3〜4月に山、6月に谷をつけ、7月の再燃で切り返し。出所:米財務省(日次)/フレディマック(週次平均)。

FRBが「期待のアンカー」として重視するインフレ期待(人々が予想する将来の物価上昇率。ミシガン大学が調査)も同じリズムを刻みました。1年先は紛争前2月の3.4%から5月4.8%まで跳ね上がったのち、原油の落ち着きで7月速報は4.2%へ低下。5年先も3.3%で横ばいです。ただし7月速報の回答の7割超は停戦破綻の前に集計されており、再燃後の期待は次回以降の確認が必要です。

図7:ミシガン大学のインフレ期待(1年先・5年先)。3〜5月に上昇、原油反落で6〜7月に低下。ただし7月速報の大半は停戦破綻前の回答。紛争前(1年先3.4%)より高い水準が残る。出所:ミシガン大学。

■消費・企業活動・住宅──底堅さと、その裏にある構造要因

実需側は、マインドの悪化に反して底堅さを保ちました。小売売上高(名目・前年比)は1月+4.8%から5月+6.9%へ伸びたのち、6月は+6.7%(前月比+0.2%)とやや減速。ガソリン安がスタンド売上を押し下げた一方、ガソリンを除くと+0.7%、無店舗(Eコマース)は+1.9%と牽引役は健在でした。もっとも伸びの一部は物価上昇(名目のため)と、OBBBA(2025年成立の減税・歳出法)に伴う税還付とみられる前倒し刺激による可能性があり、その効果が薄れる下半期は実質消費の自律性が試されます。

図8:小売売上高(前年比・名目)。1月+4.8%から5月+6.9%へ上昇後、6月は+6.7%へ小幅減速。消費者マインドが調査史上最低圏でも支出は崩れず。名目のため値上がり分を含む。6月まで。出所:米国勢調査局。

企業マインドを示すISM景況指数(購買担当者への調査で作成。50が拡大と縮小の境界)も堅調でした。製造業PMIは5月54.0まで上昇後、6月は53.3とやや反落しつつも6カ月連続の拡大圏を維持。サービス業PMIも54前後で安定し、需要の底堅さを裏づけました。引用:ISM景況指数レポート

図9:ISM景況指数(製造業・サービス業、50=拡大/縮小の境界)。製造業は1月に50を回復後、6月まで拡大圏を維持(6月53.3)。サービス業も54前後で安定。図中の各月値は概算を含み、正確な月次値はISM原資料を参照。6月まで。出所:ISM。

住宅では「金利ロックイン効果」──低金利で住宅ローンを組んだ保有者が、売却すると高い金利で借り直すことになるため動かない現象──が健在です。売り物件が出にくく中古価格が下支えされ、5月の中古住宅販売は年率417万戸・中央値42.93万ドル(5月として過去最高)。一方、新築は年率58万戸(前月比−7.3%)と弱含み、アフォーダビリティ(買いにくさ)の問題は解消していません。7月の金利再上昇は、下半期の住宅回復シナリオにとって逆風です(保有比率や価格への寄与度はFHFA等の一次データで要確認)。

■金融政策──「利下げ」から「利上げ寄り」への180度転換

上半期最大の制度変化はFRB議長の交代でした。パウエル議長の任期満了に伴いケビン・ウォーシュ氏が新議長に就任し、その初の会合となった6月17日のFOMC(政策金利を決める会合)は、全会一致でFF金利(政策金利)を3.50〜3.75%に据え置きました(3月・4月・6月と、少なくとも3会合連続の据え置き)。折れ線には表れませんが、上半期の金融政策観は「利下げ」から「利上げ寄り」へ180度転換しました。

象徴が「ドットプロット」──FOMC参加者一人ひとりの金利見通しを点で示した図──の変化です。年末のFF金利見通し(中央値)は、3月の3.4%(=小幅利下げ想定)から6月は3.8%(=むしろ利上げ)へ上方シフト。18人中9人が利上げを予想し、うち6人は2回を見込みます。年末PCE見通しも2.7%→3.6%へ大幅上方修正されました。ただしこれらはFOMCの公式方針や約束ではなく、参加者個々人の条件付き予測である点には注意が必要です。引用:FRB FOMC資料

足元の市場は「9月利上げ」の可能性を約5割織り込んでいます(CMEフェドウォッチ、7月中旬時点の先物価格ベースで日中変動)。7月の原油・金利再上昇が続けば、7月28〜29日のFOMC(SEPなし)と、その後の8月指標が利上げ着手のタイミングを左右します。

■コラム:下半期を左右する3つのテーマ

テーマ1:関税の「7月24日問題」──今週が期限

いま輸入品にかかる10%の追加関税(通商法122条に基づくもの)が、7月24日(発動から150日)で失効します。同条は150日を超える単純な延長を認めておらず、維持には議会の立法など別の法的根拠が必要です。予定どおり失効すれば財価格に下押し、別の枠組みで維持・上乗せされればコアCPI・コアPCE(図1)に上振れ圧力。下半期最初にして最大の政策イベントです(実効関税率の推計はTax Foundation等の試算で約11.7%。失効時は約5.7%とされるが、時点・手法で変動)。

テーマ2:原油・停戦の持続性──再燃が現実に

「合意は脆い」というリスクが、7月上旬の停戦破綻で現実になりました。ブレントは$88へ戻り、6月に進んだ物価の落ち着き(図2の下降)は巻き戻しの瀬戸際にあります。ゴールドマンは年末ブレントを80ドルと予想しますが、ホルムズ海峡の供給不安が続けば、物価・金利・期待がそろって図5の山を再び描き直しかねません。停戦の再構築が下半期最大の変数です。

テーマ3:物価の粘着 vs 利上げ寄りのFRB

コアPCE(5月3.4%)が下がらず、インフレ期待(図7)が再燃後に再上昇すれば、ウォーシュFRBは利上げに動きうる。これはリスク資産の前提が変わる最大のテールリスクだと筆者はみています。減税による前倒し刺激が薄れるなか、消費(図8)の自律性も同時に問われます。

■7月〜8月の注目カレンダー

日付(2026年)

イベント

見どころ

7月2日(済)

6月雇用統計

NFP+5.7万・失業率4.2%。減速を確認。

7月上旬〜8日(済)

停戦の破綻

6/17の暫定MOUが崩れ、7/8に停戦終了を表明。原油が再上昇。

7月14日(済)

6月CPI

総合+3.5%・コア+2.6%。原油安で急低下。

7月15日(済)

6月PPI

前年比+5.5%へ低下。ガソリン−12.0%。

7月16日(済)

6月小売売上高

前月比+0.2%。ガソリン除き+0.7%。

7月17日(済)

7月ミシガン(速報)

1年先期待4.2%へ低下(回答の大半は停戦破綻の前)。

7月24日

122条関税の失効期限

失効か、別の枠組みでの維持か。物価の道筋を左右。

7月28〜29日

FOMC

SEPなし。ウォーシュ議長の声明・会見のトーン。

7月30日

Q2 GDP速報/6月PCE

成長率とFRB最重視の物価を同日確認。

8月7日

7月雇用統計

NFPが損益分岐点(約6万人)を上回れるか、失業率4.2%台が続くか。

■まとめ──折れ線が示す上半期と、下半期の分岐点【筆者見解】

2026年上半期の主要指標──物価・金利・期待・原油──は、2月末を起点に3〜4月へ山をつくり、6月に反落するという同じ形を、時間差で描きました。6月のハードデータ(CPI・PPI・小売)は、その反落=剥落を統計として裏づけています。ところが7月上旬の停戦破綻で、原油・金利・期待の線は谷を打って再び上向きに転じました。

いま起きているのは、「6月に確認した落ち着き」と「7月に再燃したショック」のせめぎ合いです。加えて、下がりにくいコア物価、7月24日の関税、減税刺激の息切れという3つの力が絡みます。折れ線のどれが最初に角度を変えるか──それが下半期の米国株を読むうえで最大の手がかりになる、というのが筆者の結論です。指数側の読み方は姉妹記事「米国株の主要指数6つの違いと読み方」で整理していますので、本稿の経済指標とあわせて読むと解像度が上がります。

免責事項

本記事は取得時点の公開情報・公的統計に基づく客観的な整理であり、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨するものではありません。市場データ(原油・金利・株価)は特記なき場合、米ドル建て・現地7月20日の終値ベースであり、取得時点により変動します。記事中の一部の月次値(特に原油・金利・ISM)は月末・概算・速報値を含みます。なお当初公開版から、公的統計の確定値・改定値に基づき、6月雇用統計(NFP+5.7万人・失業率4.2%)、月次NFPの改定値、ISM製造業6月(53.3)、政策金利の据え置き回数(3会合連続)、次回雇用統計の発表日(8月7日)、米・イラン情勢(6月17日署名の暫定MOUと7月上旬の停戦破綻)を訂正しています。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。