2026年9月24日、Oracleがニューメキシコ州で建設中の巨大AIデータセンター「Project Jupiter」について、開発会社に契約上の「不可抗力」を通知したと報じられた。主な背景の一つは発電用の天然ガスを運ぶパイプラインの遅れで、電力を予定通りに確保できるかが不透明になっている。計画の中止ではない。

ただ、AIデータセンターでは建物よりも電力がボトルネックになりつつあり、今回はそれを示す出来事だと筆者は見ている。

主要ポイント

  • 支払い延期を狙った「不可抗力」通知:Oracleは「不可抗力」を通知した。狙いは、2028年の稼働目標を外した場合に、本格稼働後の支払い開始を遅らせることだと報じられている。法的な効果はまだ確定していない。Oracle自身は「予定通り」と説明しており、遅延を宣言したわけではない。
  • パイプラインが約半年遅れ:原因は電力だ。発電用の燃料電池にガスを送る約17マイルのパイプラインは、旧ルートのうち州有地を通る区間が認められず、ルートを変更した。稼働目標は2027年2月1日へ約半年遅れた。
  • 負担は関係者に広く及ぶ可能性:完成が遅れれば、Oracleは売上の計上が遅れる可能性がある。ただしReutersによれば、開発段階の低い賃料と債務コストの負担はOracleに残るとされる。Blue Owlや、180億ドルを融資する銀行にも負担が及ぶ可能性があると筆者は見ている。

何が起きたのか

Bloombergの報道によると、Oracleは開発を担うBlue Owl Capital傘下のSTACK Infrastructureなどに「不可抗力」を通知した。目的は、キャンパスが2028年の稼働目標に間に合わなかった場合に、借り手(テナント)の立場を保ったまま支払いの延期を目指すことだとされる。契約本文は公開されていない。通知によって実際に支払いが延期されるかは、現時点では確定していない。

不可抗力とは、天災など、当事者にはどうにもできない事情のことだ。大規模なインフラ契約などでは、「不可抗力が起きたら、期限の遅れを違約として扱わない」という条項が一般的に用いられる。行政の許認可の遅れなどが対象に含まれる場合もあるが、何が不可抗力にあたるかは契約の文言次第だ。

今回に当てはめると、次のような状態に近い。店舗を借りる約束をしたが、電気工事の許可が下りず、完成が遅れそうだ。そこで「開店できるまで家賃の発生を待ってほしい」と、今のうちに書面で伝えておいた。

Reutersの報道によると、背景には電力確保の遅れがあり、関係者は「契約上、電力の確保はOracleの責任」と話している。

Albuquerque Journalが伝えた声明で、Oracleは「計画通りのスケジュールにある」と説明した。こうした通知は大規模開発では一般的で、それ自体が遅延を意味するものではないという。TechCrunchの記事によると、Blue Owlも「財務上のコミットメントは変わらない」とコメントした。

Project Jupiterは、OpenAIなどが進めるAIインフラ計画「Stargate(スターゲート)」の主要拠点の一つだ。開発はBlue Owl傘下のSTACK InfrastructureとBorderPlex Digital Assetsが担う。STACKは、事業期間を通じて最大1,650億ドルの民間投資を見込むとしている。DatacenterDynamicsの報道によると、主要テナントはOracleだ。OpenAIの発表でも、この拠点はOracleが開発を担う拠点に分類されている。

解説

① なぜ電力が問題なのか

Jupiterは電力会社の送電網に頼らず、敷地内の発電設備で動く設計だ。Oracleの4月27日の発表によると、最大2.45GWのBloom Energy製燃料電池を使う。

燃料電池は天然ガスから電気をつくる装置なので、ガスが届かなければ発電できない。

ところが、そのガスを運ぶパイプラインが遅れている。ニューメキシコ州土地局の発表によると、州は州有地を通る約0.6マイルの区間の申請を3月に却下し、7月には再考の要請も拒否した。

Bloombergの8月の報道によると、Energy Transfer子会社のTranswesternは、州有地を避ける新ルートを連邦エネルギー規制委員会(FERC)に提出した。稼働目標は2026年8月から2027年2月1日に延びた。調査会社Energy Aspectsのアナリストは、稼働は「早くても2027年後半」と見ている。

発電設備の大気汚染に関する許可も、まだ出ていない。KRWGの報道によると、州最高裁は9月17日に審査の一時停止を解除した。ただ、9月18日時点で新しい審理官も公聴会の日程も決まっていない。

② スケジュールにどれだけ余裕があるか

Oracle公式のデータセンター一覧では、この拠点の顧客への引き渡しは「2027年前半に開始」とされている。

公表されている日付を並べると次のようになる(筆者作成)。

時期

出来事

筆者のコメント

2026年11月23日

州環境局の大気許可の判断期限(現時点で報じられている期限、TechCrunch報道)

審理官も日程も未定で、期限通りに進むかは不透明

2027年2月1日

パイプラインの新しい稼働目標

ここでガスが届き、ようやく本格的に発電できる

2027年前半

Oracleが掲げる引き渡し開始

ガス到着から6月末まで最大でも約5カ月しかない

2027年後半

アナリストが見るパイプライン稼働の最速時期

この見方が正しければ、前半の引き渡しは難しい

2028年

Bloombergが報じる稼働目標

未達の場合に、Oracleが支払い延期を主張する根拠になる

単純に日付を比べると、パイプラインが予定通りでも、発電設備の試運転やサーバーの立ち上げに使える期間は約5カ月しかない。筆者は、追加の遅れが一切起きない前提の、余裕の小さい日程だと見ている。

③ 遅れたら誰が困るのか

今回の通知で注目したいのは、遅延の負担が誰にどう及ぶかだ。手がかりの一つが融資の価格だ。Financial Timesの報道を伝えたReutersによると、Jupiter向けの180億ドルの融資は、取引市場で額面1ドルあたり89〜91セントまで値下がりしていた。

同報道は理由として、Oracleの信用力への懸念と、銀行が融資を外部の投資家に売りにくくなっていることを挙げている。

価格には、信用リスクだけでなく、流動性や再販の難しさも織り込まれているとみられる。

関係者

役割

完成が遅れた場合の影響(筆者の整理)

Oracle

借り手(テナント)

売上の計上が遅れる可能性がある。Reutersによれば、不可抗力が認められると開発段階の低い賃料の期間が延び、本格稼働後の高い賃料への移行を遅らせられる可能性がある。債務コストの負担は残るとされる

Blue Owl(STACKの親会社)

開発・所有

本格稼働後の高い賃料の開始が遅れる可能性がある。Reutersによると約30億ドルのエクイティを保有

銀行団

180億ドルを融資

Reutersによれば、債務コストはOracleが負担するとされる。通知で銀行への返済が止まるとは確認できない。ただし、ローンの市場価値や投資家への売却には悪影響が出る可能性がある

Bloom Energy

燃料電池を供給

遅延すれば、自社最大級の案件の収益計上時期にも影響が出る可能性がある

株価の反応も確認しておく。Motley Foolの市況記事によると、9月24日のOracle株の終値は前日比3.47%安の139.54ドルだった。S&P 500がほぼ横ばいの中、OracleとJupiter関連株の下落が目立った。Investing.comの報道では、報道時点で一時、Blue Owlが約4%、Bloom Energyが約6%下げていた。

まとめ

筆者は、今回の通知を「計画の崩壊」とは見ていない。建物の工事は進んでおり、Oracleも予定通りと説明している。遅れに備えて契約上の権利を保全しておくのは、借り手として合理的な対応でもある。

ただし、「順調」とも言いにくい。パイプラインはすでに半年遅れ、発電設備の許可も出ておらず、融資は額面を割り込んでいる。そのなかでOracleは、遅延時に支払いを延期できるよう契約上の手を打った。少なくとも法務・財務の面では、遅延シナリオへの備えを進めているといえる。

年次報告書(10-K)によると、Oracleには2026年5月末時点で、まだ開始していないリース契約が約2,600億ドルあり、そのほぼすべてがデータセンター関連だ。

Jupiterの最終的な利用者はOpenAIであり、ReutersはOracleがOpenAIへAI計算能力を提供する契約の一部だと報じている。Oracleはほかにも2027年に複数のStargate関連拠点の引き渡しを予定している。そのためJupiter単体の遅れ以上に、他の拠点でも電力確保や許認可の遅延が広がらないかが重要になる。OpenAIにとっては、こうした遅れがそのまま計算能力の確保時期に影響する可能性がある。

AnthropicはJupiterの当事者ではなく、AmazonやGoogle、Microsoftなど複数の調達先に計算能力を分散している。ただし、同社を含むAI各社が大規模なデータセンター増設を進めるなか、電力と許認可の制約は共通の課題だ。Currenceは2026年に稼働予定の大規模データセンター容量の30〜50%が遅れる可能性があると推計している。

さらに、ハイパースケーラーが借り手となり、Blue Owlのような外部資金でデータセンターを建設する仕組みも広がっている。今回の不可抗力通知や融資価格の下落が資金調達条件の悪化につながれば、OracleやOpenAIだけでなく、Microsoft、Meta、Amazon、Googleなどのデータセンター投資コストにも波及しうる。筆者は、Jupiter単体よりもこの連鎖の方が市場にとって大きな論点だと考える。

今後は、11月23日に向けた大気許可の進捗、12月に見込まれるOracleの次回決算で「2027年前半の引き渡し開始」が維持されるか、2027年2月1日のパイプライン稼働目標が守られるかを確認したい。これらの一つでも崩れれば遅延懸念は強まり、予定通り進めば今回の懸念は後退すると見ている。

引用

免責

※本記事は2026年9月25日(日本時間)時点の公開情報に基づく整理であり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。金額は特記なき限り米ドル建てで、Oracleの会計年度は6月から翌年5月までです。不可抗力通知の内容、2028年の稼働目標、融資の取引価格は報道ベースの情報であり、契約本文は公開されていません。Oracleの「2027年前半の引き渡し開始」は同社公式サイトの掲載内容、パイプラインの稼働目標と大気許可の判断期限は報道時点の計画で、いずれも今後変更される可能性があります。スケジュールの余裕(約5カ月)は筆者が公表日付から機械的に算出した概算で、会社が公表した数値ではありません。関係者ごとの影響の整理は筆者の見方です。確定した事実・会社の説明・報道ベースの情報・筆者の見方はそれぞれ本文中で区別していますが、報道や会社の見通しは将来の実績を保証するものではありません。株価は2026年9月24日(米国時間)の終値または報道時点の値であり、以後変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。