2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの大規模軍事攻撃を開始した。
開戦から1週間が経過し、原油価格は週間+35%超の歴史的急騰、S&P500は年初来マイナス圏に沈んでいる。
本記事では「今なにが起きているのか」「マーケットにどう影響しているのか」「今後どこを見ればいいのか」を、できるだけシンプルにまとめた。


1. 情勢まとめ——誰が何をしたのか

開戦の経緯

2026年2月28日、米国(作戦名:エピック・フューリー)とイスラエル(作戦名:ロアリング・ライオン)がイランに対する共同軍事作戦を開始した。

主な攻撃対象は、テヘラン・イスファハン・コムなどの軍事施設・政府機関・核関連施設。
この攻撃により最高指導者ハメネイ師が死亡した。国防大臣やIRGC(革命防衛隊)司令官も死亡が確認されている。

背景には、2025年末からのイラン国内での大規模反政府デモと、核開発問題をめぐる外交交渉の決裂がある。
報道によれば、オマーン仲介の間接交渉でイラン側がウラン濃縮の監視受け入れに合意寸前だったが、その翌日に攻撃が始まった。

イランの反撃

イランは「真の約束IV作戦」として、数百発の弾道ミサイルとドローンで反撃。標的はイスラエル本土に加え、イラク・クウェート・バーレーン・カタール・サウジ・UAE・ヨルダンの米軍基地。
クウェートの米軍基地攻撃で米兵6名が死亡している。

ただし、3月4日以降はイラン側のミサイル発射頻度が低下しており、在庫が枯渇しつつあるとの分析もある。

紛争の拡大——各国の動き

アクター

状況

ヒズボラ(レバノン)

ハメネイ師暗殺後、イスラエルに210発以上のミサイル発射。イスラエルは250回超の空爆で応戦。10万人の予備役を召集し、地上侵攻の態勢

イラク

イラン系民兵が米軍基地に1日20〜28回のドローン攻撃。3月6日にはイラク最大のルメイラ油田が攻撃を受け操業停止

フーシ派(イエメン)

紅海攻撃の再開を表明。ただし3月7日時点では実際の攻撃再開は未確認。マースクなど大手海運は一部航路を撤回済み

シリア

アサド政権崩壊後の暫定政府が移行期を管理中。イランの報復ミサイルがシリア南部に着弾し4名死亡

要するに、イラン本体 vs 米・イスラエルの戦いが、レバノン・イラク・イエメン・シリアを巻き込む「多戦線の地域紛争」に拡大している状態だ。


2. マーケットへの影響

原油——1983年以来最大の週間上昇

ここが最も大きなインパクトだ。

指標

開戦前(2/27)

3/6時点

変動

WTI原油

~$67

$90.90

+35.6%(週間)

ブレント原油

~$72

$92.69

+約28%(週間)

WTIの週間+35.6%は、先物取引が始まった1983年以来の最大上昇幅

最大の原因はホルムズ海峡の事実上の閉鎖だ。世界の石油取引の約20%が通過するこの海峡で、3月2日以降タンカーの通行がほぼゼロになっている。
IRGCが通過船舶への発砲を警告し、マースクなど全大手海運がホルムズ通過を停止した。

さらに、カタールのラスラファンLNG施設(世界最大)がドローン攻撃で操業停止。
カタールエナジーは不可抗力条項(フォースマジュール)を宣言した。これは世界LNG供給の約19%に相当する。

欧州のガス価格(TTF)は€32→€60超に急騰し、ロシアのウクライナ侵攻以来最大の上昇を記録。

OPEC+は日量20.6万バレルの増産を決定したが、ホルムズ海峡を通れない以上、ほぼ焼け石に水の状態だ。
むしろイラク自身が油田閉鎖を余儀なくされ、日量150万バレルが停止している。

東アジアへの影響——韓国KOSPIが2008年以来最悪

中東の原油・LNGに大きく依存する東アジアは直撃を受けている。

韓国KOSPIは1日で-12%という2008年以来最悪の暴落を記録し、サーキットブレーカーが発動。
SKハイニックスとサムスン電子が急落した。韓国与党は「主要材料の調達が不可能になれば半導体生産が混乱する」と警告している。

影響経路は主に2つ。

① エネルギー依存リスク:韓国・日本・中国はペルシャ湾からの原油・LNG輸入に大きく依存。ホルムズ海峡閉鎖が長引けば、製造業のコスト増と操業停止リスクが現実化する。

② 半導体サプライチェーン:カタールは半導体製造に不可欠なヘリウムの主要供給国。LNG施設の停止はヘリウム供給にも波及する。IDCは2026年のスマートフォン市場を前年比-13%と予測し「記録的最大の減少」と警告した。

CNBCは「米・イラン戦争が露呈した最大の集中リスクはS&P500ではなく、エネルギー輸入依存の新興国市場にある」との趣旨を伝えている。※1

米国株の主要指数

指数

3/6終値付近

年初来

S&P500

~6,740

約-1.5%

ダウ30種

~47,502

マイナス圏

ナスダック

~22,388

マイナス圏

VIX(恐怖指数)

29.49

開戦前 ~20

3月3日にはダウが一時1,277ポイント急落する場面もあった。
ただしVIXは29台で、2025年4月の関税危機時(52.3)と比べれば市場は「最悪シナリオ」をまだ織り込んでいない。

勝者と敗者——セクター別の明暗

上昇セクター(買われている銘柄群)

セクター/銘柄

動向

ポイント

防衛株

年初来+30%超

ロッキード(LMT)+35%、ノースロップ(NOC)+30%、RTX大幅高。FY2026国防予算1.01兆ドル(+13.4%)

エネルギー株

S&P500で最高パフォーマンス

エクソン(XOM)~$126、シェブロン(CVX)~$190。BofA目標価格:XOM→$151、CVX→$206

金(ゴールド)

$5,100〜5,400で推移

前年同期比+75%超。JPモルガン年末目標$6,300

下落セクター(売られている銘柄群)

セクター

要因

テクノロジー/グロース株

原油高→インフレ期待上昇→金利上昇→バリュエーション低下の連鎖

半導体

ヘリウム供給リスク、物流混乱、需要減退の三重苦

航空・旅行

燃料費高騰、中東路線停止

消費財(ディスクレショナリー)

ガソリン高による消費者の可処分所得減少

FinancialContentによると、Bank of AmericaとMerrill Lynchのアナリストは、この動きを「Bits to Atoms(デジタルから実物資産へ)」への転換と表現している。※2

安全資産の動き

米国債は開戦直後に買われ、10年債利回りが一時3.96%まで低下。
しかしその後、原油高によるインフレ懸念で4.17〜4.18%まで上昇した。
つまり、今回は国債が純粋な安全資産として機能していない
原油ショックがインフレと景気悪化を同時に引き起こす「スタグフレーション」型の危機では、債券も株も同時に売られるリスクがある点に注意が必要だ。

※1 Iran war exposes big market concentration risk. It isn't in US stocks

※2 The Great 2026 Defensive Rotation: Why Markets are Pivoting to Energy and Defense


3. 今後の情勢——判断材料と注目ポイント

シナリオ別の見通し

シナリオ

確率感

原油見通し

株式への影響

早期解決(1〜2週間で停戦)

低い(15〜20%)

$75→$65に低下

一時的な下落後、完全回復

ベースケース(3〜6週間で沈静化)

やや高い(40〜50%)

Q2平均$76〜85

S&P -5〜10%、下半期に回復

ホルムズ長期閉鎖(6週間超)

注意(20〜25%)

$100〜120

S&P -15〜20%、スタグフレ懸念

全面地域戦争(地上侵攻+フーシ参戦)

テールリスク(10〜15%)

$120〜150

S&P -25%超、世界景気後退

ゴールドマン・サックスは「ホルムズ海峡の閉鎖があと5週間続けば、ブレント$100到達の可能性が高い」と予測。※1
JPモルガンは封鎖18日目で世界の石油供給損失が日量470万バレルに達すると可能性があると試算している。※2

外交の見通しは暗い

現時点で停戦の見通しは厳しい。

  • トランプ大統領:イランに「無条件降伏」を要求
  • イラン外相:「停戦は求めていない。交渉のたびに攻撃された」と拒否

双方が強硬姿勢を崩しておらず、オマーンが仲介を試みているものの進展は見られない。
NYT報道をReutersが伝えたところによると、イラン情報省の関係者が第三国の情報機関を通じてCIAとの協議に前向きなシグナルを送ったとされる。ただし、イラン側はこれを否定しており、水面下の動きとして慎重に見る必要がある。※3

投資家が今見るべき5つのポイント

① ホルムズ海峡の通行再開(最重要) → タンカーの通行データが全ての根幹。再開すれば原油急落・株反発。

② フーシ派の動向 → 紅海攻撃が再開されれば「ホルムズ+スエズ」の二重チョークポイント危機に。物流コストがさらに上昇する。

③ VIXのタームストラクチャー → 現在は強い逆転(短期>長期)で「短期危機」の読み。これがフラット化すれば長期化を織り込み始めたサイン。

④ 米CPI・インフレ指標 → 原油高がインフレに波及するスピード。FRBの利下げ期待が消えれば、グロース株にとって長期的な逆風。

⑤ イスラエルのレバノン地上侵攻の有無 → 10万人の予備役召集済み。実行されれば紛争の大幅拡大を意味する。

※1 Goldman Sachs warns oil may surge above $100/bbl if Hormuz flows don’t recover | Reuters

※2 Hormuz shutdown could force Iraq, Kuwait to curb oil output within days: JP Morgan

※3 Iran intelligence operatives signalled openness to talks with CIA to end war, NYT reports


4. 個人投資家としてどう考えるか

過去の地政学ショックとの比較

歴史的に見れば、地政学ショック後のS&P500は1ヶ月で平均-0.9%、6ヶ月で+3.4%と比較的早期に回復してきた。
1940年以降の43の地政学イベント後、65%のケースで1年後に上昇している。

ただし、「石油供給が途絶したケース」は例外だ。
1973年のアラブ石油禁輸(原油4倍、S&P -44%)、1990年の湾岸危機(原油2倍、S&P -13%)のように、実際のエネルギー供給ショックを伴った場合は回復に時間がかかった。

「今回が違う」かもしれない理由

  • ホルムズ海峡の実際の閉鎖は、過去の中東紛争では起こらなかった前例のない事態
  • S&P500のバリュエーション(シラーPER)が155年間で2番目の高水準——負のショックに脆弱
  • トランプ関税政策との二重ショック(供給サイドと需要サイドの両方から圧力)

主要機関の推奨まとめ

  • パニック売りは避ける(Carson Group):歴史的に地政学ショック後の売りは早すぎることが多い
  • エネルギー・防衛・金のエクスポージャー確保(BofA):実物資産へのローテーション
  • 非線形のダウンサイドヘッジ(ゴールドマンAM):プットオプションなどで尾部リスクに備える
  • エネルギー・防衛の急騰は紛争終結時にフェードする可能性:高値追いは慎重に
  • ブラックロック:「主にボラティリティ・ショック。無差別なデリスキングには反対」

まとめ

3月7日時点で、市場はこの紛争を「比較的短期のボラティリティイベント」として織り込んでいる。
VIXの29台は深刻だが、パニック水準(50超)には至っていない。

しかし、ホルムズ海峡の閉鎖が長引けば話は変わる。
イランの「停戦拒否」とトランプの「無条件降伏要求」という膠着状態が続けば、原油$100超とスタグフレーションという「テールリスク」が現実のものとなる。

投資家にとっての最優先課題は「短期危機か長期危機か」の見極めだ。ホルムズ海峡の通行データを毎日チェックし、エネルギー・防衛・金へのエクスポージャーを確認しつつ、パニック売りは避ける——これが現時点で最も合理的な対応だろう。


※本記事は2026年3月7日時点の情報に基づいています。投資判断は自己責任でお願いします。 ※当ブログは特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。